最新記事

南シナ海

【南シナ海】中国船による「当て逃げ」にフィリピン激怒

Philippines' Top Diplomat Says "F*** the International Community"

2019年6月14日(金)18時00分
ブレンダン・コール

南シナ海の前哨基地を目指すフィリピンの補給線(手前)の行く手を阻む中国海警局の船(2014年、セカンド・トーマス礁) Erik De Castro-REUTERS

<22人の乗組員も見捨てて逃げた中国船の事件をきっかけに、「フィリピンの海」を荒らす中国に対する積年の恨みが燃え上がった>

フィリピン漁船が中国漁船に衝突され、沈没した事件で、フィリピン外相が憤りをぶちまけた。

6月9日の朝、南シナ海のリード堆周辺に停泊していたフィリピン漁船が中国漁船に衝突されれた。中国漁船はそのまま立ち去り、フィリピン漁船の乗組員22人が海に投げ出されたという。

たまたま近くを航行していたベトナム船に救助され全員無事だったが、AP通信によれば、この海域を管轄する米軍の報道官スティーブン・ペネトランテ中佐が「まるで当て逃げだ」と言った。

事件後、中国漁船の行動を「卑劣で糾弾に値する」と非難したフィリピンのテオドロ・ロクシン外相は6月13日、国際社会に助けを求めるべきだという内外の声に、「国際社会などくそ食らえ」とツイート。どうせ金の力が働くに決まっている。これはわれわれの戦いであり、最後はわれわれだけで戦うことになるのだ」

アナ・テレジア・リサ・ホンティベロス上院議員もロドリゴ・ドゥテルテ大統領に対して、「中国にいる大使と領事を直ちに呼び戻す」よう求めたと、マニラ・タイムズ紙は報じている。

沿岸警備隊では生温い?

フィリピンの首都マニラでは6月12日、漁業従事者も参加する抗議デモが行われた。参加者たちは、国の主権を守ろうと国民に呼び掛け、ドゥテルテに対して、中国の習近平国家主席に強硬な姿勢を示すよう要求したという。

南シナ海では、中国と東南アジア諸国などが領有権を争っている。中国が7つの礁を人工島に変え、軍事拠点化を進めていることを各国は恐怖の目で見つめてきたし、フィリピンとは漁業や資源探査、軍事演習などをめぐっても紛争が絶えない。

リード堆と、フィリピンが前哨基地にしているセカンド・トーマス礁ではこれまでも、中国船がフィリピンの軍艦や民間船舶を妨害してきたと、AP通信は報じている。

しかもフィリピンが西フィリピン海と呼ぶ海域については、オランダ、ハーグの仲裁裁判所が2016年に、中国ではなくフィリピンの排他的経済水域だという判決を下している。

フィリピンの検事総長だったフローリン・ヒルベイはサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙の取材に対し、この判決を遵守させるためにも、フィリピン政府は強硬路線を取るべきだと述べていた。

「海軍を出せとまでは言わない。沿岸警備隊で足りるだろう」と、ヒルベイは言った。「公の場で中国に抗議するのだ。国連に訴えるのもいい」

だがフィリピン外相は、国際社会など「くそくらえ」と言うほど怒っているのだ。

(翻訳:ガリレオ)

20190618issue-cover200.jpg
※6月18日号(6月11日発売)は「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集。「全米最高の教授」の1人、サム・ポトリッキオが説く「勝ち残る指導者」の条件とは? 必読リーダー本16選、ポトリッキオ教授から日本人への提言も。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米政府閉鎖解除で統計発表再開、12月利下

ビジネス

マスク氏とフアン氏、米サウジ投資フォーラムでAI討

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新

ワールド

EU、重要鉱物の備蓄を計画 米中緊張巡り =FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中