最新記事

天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶

米中経済戦争の余波──習近平の権力基盤が早くも揺らぎ始めた

2019年6月5日(水)18時25分
長岡義博(本誌編集長)

Carlos Barria-REUTERS

<トランプの「マッドマン」戦略により、中国経済だけでなく、習政権の基盤にまで亀裂が入っている。それでもトランプが執拗に中国叩きの手を緩めない本当の理由とは>

前編「浙江省で既に小工場30%が倒産──米中経済戦争の勝者がアメリカである理由」に続き、元民主活動家で独自の中国評論で知られる陳破空(チェン・ポーコン)氏が、米中貿易摩擦の共産党政治への影響や、アヘン戦争に至る清朝とイギリスの交渉と、現在の米中交渉の類似性について分析。なぜトランプがこれまでのアメリカ大統領と違い執拗に中国を追い詰めるのか、その本質について語った。

◇ ◇ ◇

――トランプほど中国に厳しい態度を取るアメリカ大統領はいなかった。習近平(シー・チンピン)はこれを予測していたのか。

予想できなかった。だから準備できなかった。中国政府にとって多くの意外なことがあったが、第1は2016年の大統領選挙でヒラリー(・クリントン)が勝ち、トランプが当選できないと思っていたこと。2つ目の間違いはトランプがただのビジネスマンであり、巨額の米中貿易があるから結局は中国に従うだろう、と考えていたことだ。

第3はトランプの行動が予測できないこと。5月3日に習近平は「後の責任は取る」と言って、妥結しかけていた150ページの協定文と「法改正の約束」を撤回した。しかし彼はトランプが癇癪を起こして2日後の5月5日に関税率を上げるとは予測できなかった。

古代中国には「天時、地利、人和(天の時、地の利、人の和)」ということわざがある。「天時」はチャンス、「地利」は地勢の有利さ、「人和」は人の配置。トランプ政権には3つの要素のすべてがそろっているが、中国にとってはまったく正反対の状況だ。

トランプの登場は習近平にとっては意外だったが、歴史的には必然だ。中国とアメリカの発展はまったく反対の方向を向いている。習近平は文革や毛沢東時代へと「後退」しようとしている。

――アメリカの学者の中には、今回の米中の衝突は「文明の衝突」ではない、という見方もある。

文明の衝突であり、制度の衝突であり、力量の衝突だ。「アメリカは長男、中国は二男だからアメリカは中国の台頭を許さない」という人がいる。それは副次的な問題だ。もし中国が民主国家ならそうはならない。アメリカは民主主義を核心とする世界文明の主流だが、中国共産党の文明とは一党独裁の党文化。ただしこれは中国伝統の文化とも、世界の文明とも違う奇妙な文化だ。両者のぶつかり合いが文明の衝突だ。

アメリカは多党政治で報道・言論の自由があり、司法が独立し、私有経済の条件が保障された制度の国だが、中国はそれとは反対だ。閉鎖的で、法治はなく人治のみがあり、外国企業の待遇も不平等。これが制度の衝突だ。

力量の衝突について言えば、中国のエネルギーは「負能量(マイナスエネルギー)」、アメリカは「正能量(プラスエネルギー)」の国だ。一方は人類に好影響を与えるが、もう一方は悪影響を与える。米中の争いは文明、制度、力量の「決闘」なのだ。

今回のアメリカと中国の交渉は清朝とイギリスの交渉と非常に似ている。1840年にアヘン戦争が開戦するまで、乾隆帝から始まったイギリスと清朝の貿易は清朝にとって黒字、イギリスにとって赤字の状態が続いた。イギリスは清朝のお茶やシルクを大量に購入したが、清朝は何も買うものがなかった。

(戦争が終わって1842年に)南京条約が結ばれるまでは、清朝がイギリスに対して不平等だったが、条約締結後はイギリスが清朝に対して不平等になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中