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疑似考古学

「古代マヤの宇宙飛行士」説、アメリカで再浮上?

2019年5月14日(火)16時40分
秋山文野

「超古代文明」に言及する説を信じる人が増えている

アンダーソン教授のツイートに添えられた石棺の図柄は縦に表示されており、世界樹と鳥という意匠を理解しやすくなっている。フォン・デニケンは著書で古代の宇宙飛行士説を唱えるにあたり、図柄を90度回転させて横方向に見せることで元来の解釈をわかりにくくし、自説を補強したとされる。こうした本来の文脈からの切断操作をアンダーソン教授は強く非難している。

こうした「超古代文明」に言及する説は、他にもアトランティス大陸の生き残り、エジプトのピラミッド建設を宇宙人が支援したなど荒唐無稽な多数の説があり、「pseudoarchaeology」と総称される。「pseudo(偽の、まがいの)」と「archaeology(考古学)」を合成した語で、同様のpseudoscienceという言葉が「疑似科学、ニセ科学」と訳されることから「疑似考古学」の意味と考えてよいだろう。アメリカ考古学協会の機関誌でも、偽史の一種であるとしている。

こうした説は古くて新しく、今でも(書籍だけでなくPodcastでも)浮上してくることがある。アンダーソン教授のように研究者から一蹴されて引っ込めばよいのだが、信じる人が増えているというデータがある

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カリフォルニア州のチャップマン大学が毎年行っている「Survey of American Fears」調査の中に「paranormal belief(超常現象観、超常的信念)」に対する項目がある。「アトランティス文明のような、高度に発達した古代文明があった」という設問に「部分的にそう思う、または強くそう思う」人の回答は2016年発表では36.9パーセントから2018年発表で56.9パーセントへ、「宇宙人が古代の地球を訪れていた」という項目は2016年に27.0パーセントから2018年は41.4パーセントに増えているという。

トランプ政権になってから、極端な説のほうが面白い?

疑似考古学、疑似科学が繰り返し浮上してくる理由について、ジョー・ローガン・エクスペリエンスの番組では「トランプ大統領の政権になってから、極端な説のほうが面白く、穏健で筋道の立った考え方が『つまらなく』見えるからではないか」との見方を示した。政権のせいにできるかどうかは慎重に考えたいところだが、筋道の立った考え方が『つまらない』という意見には異を唱えたい。

アンダーソン教授は「本来の考古学的資料を元の文脈に戻してみると、はるかに素晴らしいということは確かです!」ときっぱり言い切っている。石棺の図柄を回転させてみたり、宇宙船のイメージにそぐわない鳥の姿を無視してみたり、無理な解釈を積み上げるよりも、古代マヤの他の考古学的資料と照らし合わせて死生観を描き出すほうがはるかに面白い。スペースXやボーイングが新時代の宇宙船を開発し、日本でも宇宙旅行ベンチャーが開発を進めている時代に、現代の宇宙開発と何一つ結びつかない古代の超技術の話をされても「何も面白くない」のだ。

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