最新記事

教育

10%の食塩水1kg作るのに必要な塩と水は? 大学生が「%」を分からない絶望的な日本

2019年5月13日(月)15時30分
芳沢 光雄 : 桜美林大学リベラルアーツ学群教授 *東洋経済オンラインからの転載

およそ新しいものを創造するためには、いろいろな試行錯誤を粘り強く行う必要がある。この試行錯誤という点で、長い大学教員の経験から昔と今の学生で大きく違う点を感じる。それは、誰でも試行錯誤して楽しめる問題に対して、考えているときの態度に現れる。

昔の学生は全員がチャレンジし続けて、時間が30分近くなって答を言おうとすると、「先生、いま考えているから、絶対に答は言わないでください」と言う者が何人もいた。今は、そのように言う者はほとんどいないばかりか、問題を見た途端に「先生、この問題の解き方はどうすればよいか、教えてください」と言う学生が多くいる。

実は、この残念な傾向にマッチするような教育や参考書が氾濫しているが、そのような教育に対する反省があるからこそ、2020年度から始まる大学入学共通テストの国語と数学では、一部に記述試験が導入されることになった。

その試行調査(プレテスト)が何回か行われ、その度に「数学の記述試験の成績がそうとう悪い」という報告がある。

マークシート式の試験対策しか行っていない生徒がいきなり記述式の試験を受けても成績が悪いのは当然であり、難易度をもっと下げてほしかった。

さて、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)などでも、日本の子どもたちの「数学嫌い」は際立って多い。なぜ、この問題にもっと真剣に目を向けなかったのだろうか。理系に進学する女子を対象とするセミナーはあちこちで開催されるようになったが、大多数の生徒が数学を嫌いだと思う意識を改善しない限り、いくら「AI時代には数学が大切」と騒いだところで根本的な改革は進まないだろう。

数学を真に「面白い」と思うのは、素早く答を当てたときではなく、答や面白い性質を導くプロセスがよく理解できたときである。

日本の数学教育には抜本的な改革が必要だ

最後に重要と考える2点を提言したい。

1つは数学が苦手な生徒は、わからないところがわからないということだ。そのような生徒に向かって、「わからないところがあったら質問しに来なさい」と言うことは、「質問に来るな」と受け止められることに留意すべきだ。数学を教える側は、生徒がつまずいている箇所を、生徒の心に飛び込んで見抜く努力をしたいのである。

もう1つは、理解の遅いことは悪いことではないということだ。理解の遅い子どもたちにはそれぞれにマッチした教育をしてあげればよい。筆者が尊敬する数学者ガウスは、すでに3歳のとき石屋を経営する父親の計算を横からチェックしていた。

ガウスのような生徒も、理解の遅い生徒も、それぞれに見合った画一的でない数学の教育を受けられるように、抜本的な改革をしてもらいたい。それが技術立国日本の再建につながると信じている。

toyo-keizai_190513_01.jpg

『「%」が分からない大学生 日本の数学教育の致命的欠陥』(光文社新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
 
※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身も認める「大きな胸」解放にファン歓喜 哺乳瓶で際どいショットも
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中