最新記事

動物

英で「ビーバー治水実験」、ビーバーが作るダムで洪水防止

2019年4月22日(月)17時20分
松丸さとみ

「生態系のエンジニア」と呼ばれるビーバー jeffhochstrasser -iStock

<イギリスのヨークシャーでビーバーを使って河川の治水をしようという試みが進んでいる>

洪水防止&生態系を取り戻す効果に期待

英国のヨークシャーではここ数年、大規模な洪水が発生している。2007年夏は全国的に多雨で、ヨークシャーでも記録的な洪水被害があった。また2015年12月には、西ヨークシャーが「過去70年で最悪」(西ヨークシャー地元紙)という規模の洪水に見舞われた。ヨークシャーには歴史的な建造物も多く、文化財の保護という意味でも洪水対策は深刻な問題だ。

そんなヨークシャーで、ユニークな治水実験が行われることになった。土木エンジニアリングの最新技術を駆使した......ものではなく、ビーバーのつがいを使って洪水を防止しようという試みだ。英テレグラフ紙によると、ビーバーのつがいは4月17日にヨークシャーの森に放された。

公有の森林の管理などを行う政府機関フォレストリー・イングランドの発表文によると、この実験はフォレストリー・イングランド、フォレスト・リサーチ、エクセター大学、そしてビーバーの専門家が協力して実施している。

ビーバーは木の枝などを使ってダムを作るため、洪水を防止する効果が期待されている。10万平方メートルの広さに囲われた場所で、今後5年にわたって活動が監視されるという。

今回ビーバーが放たれた場所には、洪水を防止するために木材などを使ってあらかじめ人工的なダムが複数作られている。実験では、こうしたダムに対しビーバーがどのような活動をするかなどが観察されることになるが、この類の実験としては英国内で初めてとなる。

フォレストリー・イングランドの生態学者キャス・バッシュフォース氏は、ビーバーはその生態によりさまざまな生物の生息地を作り、湿地帯の生態系を回復させるため、「生態系のエンジニア」と呼ばれていると説明。そのため今回の実験は、治水だけでなく、この地域における生態系の多様性も取り戻せるのではないかと期待されている。

一度は人間に絶滅に追いやられたビーバー

今回実験に使われているビーバーは、スコットランドから連れてこられたヨーロッパ・ビーバーという種類のものだ。英国の自然保護団体ワイルドライフ・トラストによると、かつてビーバーは英国全土に生息していたが、肉や毛皮、臭腺目当てに乱獲され、16世紀初頭に絶滅してしまった。

しかし同団体はビーバーを再び英国に呼び戻す活動を続けており、2009年にはスコットランドでビーバーを野生に返し、400年ぶりに、野生環境で暮らすビーバーを誕生させた。ビーバーの生息地域を広げるべく、同団体では今後さらに他の地域でもビーバーを放す計画をしているという。

人工的なダムに対するビーバーの反応を見る実験は今回が初めてだが、実は治水目的でのビーバー活用は英国で前から行われていたようだ。英BBCは2014年2月、10年以上にわたり洪水対策として自然保護区内でビーバーを活用しているケント州での事例を取り上げていた。

ワイルドライフ・トラストのトニー・スワンデール氏がBBCにした説明によると、ビーバーの治水能力は「ダム作り」だけではない。ビーバーが湿地に新しい水路を作るため、水が本流から細かな水路へ逃げることになり、洪水が防止できるのだという。

自然保護団体ワイルドウッド・トラストのピーター・スミス氏もまたBBCに対し、ビーバーの活動で「土壌がスポンジのようになり、水分をたくさん含むようになることで洪水の防止になる」と説明している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中