最新記事

北欧

揺らぐ「平等の国」スウェーデン 富裕層減税で格差拡大、ポピュリズムや極右台頭の懸念

2019年4月14日(日)12時45分

それほど平等なのか

こうした措置は福祉大国スウェーデンの立役者には耐えられないかもしれないが、何年も続いている変化の一端にすぎない。

世界の富裕層に関するクレディ・スイスの調査によると、スウェーデンの最富裕層1%が自国に占める富の割合は、米国のそれよりも大きい。

「経済的な貴族社会が復興しているようなものだ」と、スウェーデン労働組合連合のチーフエコノミスト、オラ・ペターソン氏は言う。

スウェーデンでは一部の国で見られるような社会的混乱はないものの、多くのスウェーデン人は、2013年に首都ストックホルムで発生した暴動や、犯罪組織による暴力事件の急増は、欧州でポピュリストの躍進をもたらしているような社会的分断の表れだと感じている。

1970年代まで続いた歴代の社会民主労働党政権は、富裕層に対し、高額な所得税や富裕税、相続税や贈与税、固定資産税を課してきた。

スウェーデンの家具小売り大手イケア創業者イングバル・カンプラード氏ら多くの富裕層は、自身の資産を海外で保有した。

こうした海外流出に直面したスウェーデンは、市場志向の改革に着手し、小規模ビジネスや起業家を優遇した。

長年かけて引き下げられ、緩和された富裕税は2007年に廃止された。高額な固定資産税は上限7812クローナの手数料に取って代わった。

相続税も廃止された。一方、英国では、相続を受ける者は32万5000ポンド(約4700万円)を超えた場合には40%の税金を支払わなければならない。

同時に、超低金利政策が取られた10年間で、不動産と株式の価値が急上昇し、所得の大半を月給ではなくキャピタルゲイン(株式などの譲渡益)で稼ぐ人々が増加した。

中道右派政権は2006─14年、所得減税に着手した。上乗せ分を除く最高税率は1970年代後半の約90%から60%程度に引き下げられた。福祉給付もカットされた。

「スウェーデンは世界最高の国だ。富裕層にとってはね」と、社会民主労働党の元議員で現在は医療分野のビジネスマンに転向したヤン・エマヌエル・ヨハンソン氏はユーチューブ動画で皮肉に語っている。

スウェーデンで人気のリアリティー番組シリーズ「ロビンソン」で優勝した有名人で富豪のヨハンソン氏は、格差拡大は、街で暴動が起きるなど社会全体にとって代償を伴うと警告する。

「自分は特権階級の1人で、自宅周辺に高い壁を築くことができるとも言える。もしくは、地下鉄に乗る人たちに降りかかる災いは、いずれロールスロイスを運転する人たちにも災いとなることを認識する必要がある、とも言えるだろう」

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中