最新記事

中国

「令和」に関して炎上する中国ネット

2019年4月4日(木)12時40分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

このような報道を見ると、なおさらのこと、ここに書いた疑念を晴らしてほしいという気持ちが強くなる。筆者は個人的には「令和」は良い年号だと思っているし、この音の響きが好きだ。しかし、4月3日の共同通信のこの報道が事実なら、それは多くの日本国民が抱いているであろう「清々しく、澄んでいた純粋な気持ち」に水を差すのではないだろうか。

年号を失った民の喪失感か

もっとも、中国のネットユーザーのコメントを、かなり時間をかけて考察したのだが、どうやら、清王朝以来「年号」を失ってしまった民の喪失感が、逆に、まだ元号を持っている日本への羨望として暗く渦巻いているのを感じないでもない。

「昭和」に対して同じ発音[zhao he]の「招核」(核兵器を招く)と揶揄したり、「令和」に対しては同じ発音[ling he]である「領核」(核兵器を領有する)という文字を当てはめるなど、そこまでひねくれるのかと思われるほど、日本を誹謗したがっている。

ただし、数少ないが「韓国よりはいいんじゃないか」というコメントがあり、笑いを誘った。「だってさ、韓国だったら、中国の歴史さえ、それは韓国のものだって言うんだから、まあ、日本はそのレベルに行っているわけではないから、いいんじゃないのか」ということらしい。

たしかに「年号」という概念自身、中国から始まったものであり、漢字も中国から来たものである。日本はそのようなことを否定したりはしていない。

ただ、拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(2008年)に書いたように、日本が長年にわたって育んできた日本独自の文化に、中国の若者は夢中になり、酔いしれてきた。「80后」の中で、日本のアニメと漫画を見ずに育った者はまずいないと言っていいほど、1980年代初期には「日本の文化」が中国を席巻したのである。

暗くて長い鎖国状況と殺気に満ちた文化大革命を終えて、遂に改革開放が始まったとき、日本の映画や歌、テレビドラマやアニメ・漫画は、怒涛のように中国大陸に上陸し、子供から大人までを魅了した。その事実を否定できる中国人は一人もいないだろう。

文化というのは、もともとの起源や発祥地がどこであったかも地政学的あるいは人類学的には重要だろうが、いかなる体制の中で、どれだけの自由度を以て精神を育んでいくことができるのかによって、その価値や豊かさが決まってくるものだ。

たしかに悠久の歴史を持つ、かつての「古き良き時代」の中国には、注目に値する精神的豊かさがあったかもしれないが、中華人民共和国が誕生した1949年以来、中国共産党による一党支配体制で言論を弾圧され統一されてきた中国では、精神的自由度の高い「文化」が育まれてきたとは決して言えない。

「令和」に対する中国のネットユーザーによる膨大なコメントの中に、その「哀しさ」が滲み出ているようにも感ぜられた。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米消費者信用リスク、Z世代中心に悪化 学生ローンが

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中