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テロスリランカ連続自爆テロで蘇ったイスラム国の悪夢
IS Has Claimed Responsibility for the Sri Lanka Terror Attack
スリランカでテロを指揮したのは元IS戦闘員か(写真は2014年6月、イラクのモスルを陥落させたときのIS) REUTERS
<イスラム過激派のテロとは無縁だったスリランカが、9.11同時多発テロ以来の大きな犠牲を出さなければならなかったのはなぜなのか>
悲劇に際しては、犠牲者を悼む人たちに深い悲しみと連帯を示すだけで十分だ。スリランカの連続自爆テロでは、少なくとも250人が犠牲となり負傷者は約500人に上っている。犠牲者の埋葬が続くさなかに、何が問題だったか詳細を検証するのは、スリランカの人々に対して失礼なのではないかとも感じる。
しかし無辜の犠牲者にとっては事実解明こそが(それがすべてとは言わないまでも)慰めだ。テロがどのように実行されたかを解明し、再発防止に向けてでき得る限りのことをするのが、犠牲者や遺族に対する我々の責務だ。
今回のテロは、紛争地帯以外で発生したテロ攻撃としては、アメリカの同時多発テロ以降で最大規模の犠牲と被害を出した。現在スリランカは平和だが、過去には少数派タミル人のテロ組織が分離独立を求めて武装闘争を続け、内戦は数十年に及んだ。しかしその内戦のさなかでさえも、イスラム過激派によるテロとは無縁だった。
より組織的な殺戮テロへの回帰
IS(イスラム国)の犯行声明はテロ発生から2日後の4月23日、系列メディアのアマク通信を通じて行われた。この声明によって、今回の実行犯とされる地元の小規模なイスラム過激派組織(「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」)が、これだけ大規模なテロ攻撃を実行できたことの説明がつく。
今回のテロは、ISがこれまでシリアやイラク、アフガニスタンで実行してきたトラックによる自爆攻撃などよりも規模が大きい。
その手口はISによる、よく知られた(現在ではもうほとんど見られないが)連続自爆攻撃を踏襲している。カトリック教会を標的にするやり方は、スリランカの内戦の中心となった国内問題の文脈では理解できないが、キリスト教徒を攻撃してイスラム教徒の共感を得るISお決まりのパターンとは合致する。
40人以上のスリランカ人がシリアでISの活動に参加していた事実を考慮すれば、ISが極めて小規模なスリランカのイスラム過激派NTJに人脈を築き、攻撃計画を実行させたことも説明がつく。シリアから帰国した元ISメンバーや外国人のIS支持者がどのようにテロに関与したかという詳細はまだ捜査中だ。
だが、キリスト教のイースター(復活祭)を狙った今回のテロは、最近のISのテロよりも、2000年代に国際テロ組織アルカイダが起こした一連のテロ攻撃と類似している。
2000年の米ミサイル駆逐艦コール襲撃(イエメン)、2001年のアメリカ同時多発テロ、2002年のバリ島爆弾テロ、2003年のイスタンブール自爆テロ、2004年のマドリッド列車爆破テロ、2005年のロンドンの同時爆破テロ――これらのテロ攻撃と同様、今回も複数のテロ実行犯が連携して犯行に及んでいる。米同時多発テロを除けば、いずれのテロにも簡易な手製爆弾(IED)が使用された。
スリランカのテロは、その手口の巧妙さと犠牲者の多さで、米同時多発テロを除くどの爆発テロも凌駕しているが、NTJはこれまで宗教ヘイトによる仏像や仏教寺院の破壊行動でしか知られていなかった。
過去10年間、アルカイダは紛争地帯以外での大規模なテロ活動は実行できなかった。次第に「レピュテーション・マネジメント(評判向上のための戦略的取り組み)」を意識するようになり、無差別殺戮は避けてきた。その一方で、世界中で傘下組織のネットワークを拡大している。
ISの出現は、テロ攻撃の実行までの準備期間やその規模に関して変革をもたらした。過去のテロはほとんどが紛争地帯(シリア、リビア、イエメン、アフガニスタン、パキスタン、フィリピン南部)で実行された。
もちろん幾つかの大規模なテロは戦場から離れた場所でも起きている。2014年には少なくとも4件、2015年には16件、2017年には18件、2018年には10件発生した。だが、これらのテロの大多数は組織が関与しない単独型の実行犯が起こしている。
ではなぜ、紛争地帯以外ではアルカイダだけでなく最盛期のISでさえ、単独型のテロ攻撃に軸足を移したのか?
おそらくその理由は、準備不足とか試験的に実行したとかではない。もっと大規模で影響の大きいテロ攻撃は、情報機関によって事前に探知されて阻止されているからだ。インドネシアやマレーシアなど安定した民主社会は特にこうしたケースだ。
スリランカはソフトターゲット
もう1つの大きな疑問は、なぜスリランカで過去最大規模の犠牲者が出たテロ攻撃が可能だったのか、という点だ。
それはスリランカが「ソフトターゲット(テロ攻撃を受けやすい標的)」だからだ。2009年に政府軍がテロ組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」を制圧して内戦が終結し、スリランカの社会情勢は安定した。テロに備えて警察や非軍事の情報収集能力を発展させる必要性には迫られなかった。
その反面、政治的には不安定な状態が続いている。ちょうど半年前、マイトリパラ・シリセナ大統領がラニク・ウィクラマシンハ首相を解任したが、結果的に最高裁が大統領の独裁的な決定を違憲とする判断を示し、ウィクラマシンハがあらためて首相に再任されるという政治的混乱が起きている。
大統領の試みは失敗したが、その後の両派の睨み合いのなかで、ウィクラマシンハと閣僚たちは、情報当局による状況説明から排除された。インドの情報当局RAWが、NTJがイースターにテロを起こそうとしているとスリランカ政府に複数回送ってきた警告さえ、知らなかったと首相派は言う。
そのため、遠隔地に蓄えられた大量の爆発物が見つかるなど事前にいくつかの発見があり、そしてインド当局から警告があったにもかかわらず(最後の警告は、自爆テロのわずか数時間前だった)、スリランカ政府と治安当局は虚を衝かれてしまった。
内戦が終結し、政争に明け暮れる中で、スリランカ政府は差し迫ったテロの脅威などないと自らを欺いてしまったのだ。
他に狙われやすい国は
イースターを狙った連続テロが、ISがまだ生きていることを見せつけたとするなら、精力的で資金も豊富なこのテロネットワークが次に狙うのはどこなのか。
スリランカ・テロでは大きな成功を収めたとはいえ、ISがここに拠点を築くとは考えにくい。スリランカ政府と国民がテロのトラウマから立ち上がり、連帯を新たにすれば(今年の終わりに選挙があるので怪しいが)、またISに狙われて最悪の悲劇が繰り返されることはないだろう。
ではISは他のどこに攻撃対象を見出すのか。インドとバングラデシュにはいつでもチャンスがある。中央アジアの多くもそうだ。東南アジアでは、マレーシア、タイ、フィリピンが危険だ。
マレーシアは、昨年民主化路線に復帰して以降、より強く安定した国として台頭している。だが、テロの脅威と警戒の必要を認めていない点は心配だ。王立マレーシア警察の特殊部隊が長年かけて築いてきた優れたテロ対策も過小評価されている。
タイとフィリピンは政治的にそれほど安定しておらず、自分たちが認めるよりも不安定でもろい。いずれも、南部の過激派がバンコクやマニラでテロを行うはずはないと自らに思い込ませている。
スリランカの人々がイースターの自爆テロ攻撃でいかに高い代償を払ったかを忘れることがあってはならない。
Greg Barton, Chair in Global Islamic Politics, Alfred Deakin Institute for Citizenship and Globalisation, Deakin University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.