韓国で電動自転車シェア開始、ヘルメット貸し出し失敗事例が気になる理由
ソウル・弘大入口駅の「タルンイ」 撮影:佐々木和義
<韓国でIT大手のカカオが電動自転車シェアサービスを開始した。一方、昨年、自転車利用者にヘルメットが義務付けられていて、これが新たな問題を引き起こしている>
自転車利用者が増えている韓国の首都圏で、2019年3月6日からソーシャルネットサービス(SNS)を運営するカカオが電動自転車シェアリングの試験サービスを開始した。
特定の貸出し返却スポットは設けず、利用者はアプリを使って最寄りの自転車を探して、1万ウォンのデポジットを払い込む。最初の15分は1000ウォン、以降5分ごとに500ウォンが引き落とされ、乗り終えた自転車は通行の邪魔にならない場所に乗り捨てるというシステムだ。仁川市に400台、京畿道城南市に600台を配置し、年内には地域を拡大して3000台まで増やす計画という。
ソウル市が始めた自転車シェアリングサービス「タルンイ」
そもそも韓国には坂が多く平坦なエリアが限られる都市が多い。また、モータリゼーションの急速な発達に伴って、自転車が安全に通行できる道路が少なくなり、自転車は自動車やオートバイを買うお金がない人の乗り物とみなされるようにもなった。
しかし、2000年代に入るとサイクルスポーツを楽しむ人が増えはじめ、2009年には、当時の李明博政権は雇用創出を目的とする4大河川整備事業に合わせて自転車道を整備する政策を打ち出し、仁川からソウルを経て釜山に至る700キロメートルの自転車専用道が2012年4月に全通した。
同時期にソウル市も地下鉄に自転車を持ち込む実験を開始する。編成の両端に自転車を積載するスペースが設けられ、土曜、日曜と祝日には自転車を携行して乗車ができる。
サイクリングスーツに身を包んだ老若男女が自転車を抱えて地下鉄で移動し、サイクリングを楽しんだ後、再び自転車を地下鉄に持ち込んで自宅に帰る姿は週末の日常光景となっている。なお、折り畳み自転車は平日も多くの区間で持ち込みが可能だ。
撮影:佐々木和義
さらに、ソウル市は2015年10月から自転車シェアリングサービス「タルンイ」を開始した。当初は貸出返却スポットを地下鉄駅の近くに設置するなど、公共交通機関を補完する意味合いが強い市民向けサービスだったが、2017年にはスポットを拡大し、会員登録が不要になるなど、旅行者にも利用の幅が広がっている。
ヘルメットの着用義務化が引き起こした問題
こうして自転車の利用は拡大したが、同時に事故が急増した。自転車が絡む事故は年間1万5000件を超え、死亡者が300人近くに達したのだ。自転車の死亡事故はおよそ70%が頭と顔への衝撃で、ヘルメット未着用者の致死率は着用者と比べて2倍ほど高い。そこで政府はヘルメット着用を義務付け、2018年9月から施行されたが、このヘルメット着用義務化が新たな問題を引き起こした。
管理人が貸出しと返却を行う釜山や慶州と違って、ソウルのタルンイは無人で運営されている。ヘルメットの管理方法として、紐で自転車に結びつける案が出されたが、利用者の首にひっかかるなど新たな事故の危険があり、また見知らぬ他人が被って汗が付着したヘルメットの使用を嫌がる人も少なくない。また、タグをつけて位置を追跡するシステムを検討したが、通信費だけで年間12億ウォン(約1億2000万円)の費用がかかることがわかり断念した。
市は利用者の良心に委ねることを決め、貸出スポットに設置する保管箱等に入れて、タルンイ利用者が自由に使うことができる方式を採用するが、これが想定外の結果となった。