最新記事

環境

世界の昆虫の40%以上が絶滅のおそれ 生態系に与える影響は壊滅的

2019年2月14日(木)12時20分
松岡由希子

チョウなどに深刻な影響がみられる mreedphoto-iStock

<オーストラリアの研究者が昆虫減少に関する研究論文73編を対象に文献レビューしたところ、「世界の昆虫の40%以上が今後数十年のうちに絶滅するおそれがある」ことがわかった>

プエルトリコの熱帯雨林の節足動物が1970年代半ばからの40年間で60分の1に減少し、ドイツでは飛翔性昆虫が1989年以降の27年間で76%減少するなど、近年、昆虫が大幅に減少していることを示す研究結果がいくつも明らかとなっている。

「世界の昆虫の40%以上が今後数十年のうちに絶滅するおそれがある」

豪シドニー大学のフランシスコ・サンチェス・バヨ博士と豪クイーンズ大学のクリス・ウィクホイス博士は、昆虫減少に関する研究論文73編を対象に文献レビューし、その要因を分析したところ、「世界の昆虫の40%以上が今後数十年のうちに絶滅するおそれがある」ことがわかった。また、その絶滅のスピードは哺乳類、鳥類、爬虫類などの脊椎動物で見られるよりも8倍速く、「これが地球の生態系に与える影響は控えめに言っても壊滅的」という。

このレビュー論文は学術雑誌「バイオロジカル・コンサベーション」(2019年4月号)に掲載される予定だ。なかでも、チョウやガなどの鱗翅目、ハチやアリを含む膜翅目、カブトムシやクワガタムシなどの甲虫目に深刻な影響がみられ、トンボ類、カワゲラ類、トビケラ類、カゲロウ類といった水生昆虫はすでにその多くが絶滅しているという。

生態系を保護するためには、現在の農業を見直すべき

このレビュー論文では、昆虫減少の原因として、集約農業や都市化に伴う生息地の消失、農薬や化学肥料による汚染、病原体や外来種などの生物学的要因、気候変動という4つのポイントを指摘し、「昆虫の減少を食い止め、生命維持に不可欠な生態系を保護するためには、現在の農業を見直すべき」と説いている。とりわけ、農薬使用の削減は昆虫の減少を緩和させるうえで喫緊の課題だ。また、効果的な技術を用いて、農地や都市部で汚染された水を浄化することも必要だろう。

私たちは昆虫がいなければ生きていけない

他の研究者もこのレビュー論文と同様に「昆虫の減少がグローバル規模で深刻な課題である」との見解を示している。英サセックス大学のデーブ・グールストン教授は、英紙ガーディアンの取材に対し、「これらの証拠はすべて同じ方向を示している」と分析し、「昆虫はあらゆる食物網の中心にあり、多くの植物を受粉させたり、土壌の健康を保ったり、栄養循環に寄与するといった役割を担っている。私たちは昆虫がいなければ生きていけない」と警鐘を鳴らしている。

Al Jazeera English

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

新たな貿易戦争なら欧米双方に打撃、独連銀総裁が米関

ワールド

スペイン・バルセロナで再び抗議デモ、家賃引き下げと

ビジネス

欧州半導体業界、自動車向けレガシー半導体支援を要望

ワールド

焦点:ロシアの中距離弾道弾、西側に「ウクライナから
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中