最新記事

ロシア

人工衛星で「夜空に広告」──ロシア新興企業のプランが物議

2019年1月18日(金)16時30分
高森郁哉

spaceboard drones crowd-vimeo

<ロシアの新興企業が、小型人工衛星を使って夜空に企業ロゴなどを映し出す計画を発表し、さまざまな批判の声が上がっている>

反射板を搭載した小型人工衛星の一群を軌道上の一角に打ち上げ、企業のロゴなどを夜空に映し出すという、前代未聞の広告ビジネスをロシアの新興企業が発表した。当然のことながら、疑問や批判の声も多く上がっている。

小型人工衛星群で「巨大ディスプレイ」を構成

この事業計画を発表したのは、ロシアの新興企業StartRocket。本誌米国版サイエンスアラートなどが報じている。

計画では、キューブサットと呼ばれる小型人工衛星に、電気絶縁材などに使われる米デュポン製ポリエステルフィルム「マイラー」でできた直径約9mの帆を収納したものを多数、高度400〜500kmの地球低軌道に打ち上げる。打ち上げロケットから軌道上の50平方kmの範囲に放出された小型衛星群は、太陽光を反射させる帆を展開。個々の帆がディスプレイの画素の役割を担い、帆の向きを制御することで帆の明暗(反射させるかさせないか)を調節し、企業ロゴなどの「画像」を映し出す。

StartRocketは1月7日、この「軌道ディスプレイ」の仕組みと、夜空に広告が投影されたイメージをCGで描く動画を公開した。


2020年に試験運用目指す

StartRocketのサイトによると、CEOのヴラディレン・シトニコフ氏は広告業界に20年身を置いた人物。同氏は、スコルコボ科学技術大学の協力により小型衛星のプロトタイプを開発済みで、早ければ2020年にも打ち上げてテストを実施すると述べている。

ただし、事業計画には不明な点も多い。この技術が実際に機能するのか、事業化に必要な資金はあるのか。また、現在はこうした技術を規制する法律はないが、StartRocketの技術を使って広告を出す広告主が本当にいるのかどうか。

疑問と批判

StartRocketの計画には、さまざまな疑問や批判の声が上がっている。ある天文学者は、地球低軌道にはわずかながら大気があるため、反射帆が空気抵抗を生み軌道から降下する原因になるので、高度と配置を維持するため推進装置が必要になると指摘する。また、この広告を視認できるのは、衛星が太陽光を受けられて、見る人がいる地上は暗い時間帯、つまり日の出前後や日没前後に限られるだろうという。

また別の天文学者は、衛星で太陽光を反射させる夜空の広告は、「光の公害」になると批判する。宇宙の彼方にある天体から届くわずかな光を観測する研究者たちにとって、こうした広告が観測の障害になることは想像に難くない。研究者でなくとも、夕焼けや晩の星空を眺めているときに、企業のロゴが視界に入ってきたら興ざめするし、そんな無粋なブランドのイメージは高まるどころか地に落ちてしまうだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

不法移民取り締まり、ニューオーリンズでも開始 国土

ワールド

ウクライナ協議、次の展開不透明とトランプ氏 米ロ会

ワールド

イスラエルに人質1人の遺体返還、残り1人か ラファ

ビジネス

米の同盟国支援縮小、ドルの地位を脅かす可能性=マン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中