いい人役を脱ぎ捨てたスティーブン・ユァンが開く新境地
Escaping Being “Other”
――試写会の舞台挨拶で、李監督を「映画の天才」と呼んでいたが、彼のどこに引かれる?
もちろん作品だ。『ペパーミント・キャンディー』を見て、自分が抱えている感情の正体が分かった。それは恨(ハン)だ〔注:外国語には翻訳できない、韓国人の民族的アイデンティティーの中核を成す悲痛な情念〕。
物心ついた頃から自分の中に説明のつかない怒りが渦巻いていた。周囲に対する恐れやアジア系の疎外感も多少は関係があるだろうが、それだけじゃない。僕は戦争を経験していないし、トラウマも抱えていない。どこから生まれる感情なのか分からなかったが、(映画を)見て、韓国人の国民的な体験がその根っこにあると気付いた。自分では届かなかった深い部分を、映画が見つめさせてくれた。
――親から子へと受け継がれるトラウマ?
そう。
――それは韓国人特有のもの?
キリスト教の原罪もそれと似ている。父親の罪が子孫に受け継がれていく。
――激烈な感情表現で知られる韓国映画には民族5000年の受苦が込められている?
そうだね、僕もそう思う。
――あなたは『オクジャ/okja』でポン・ジュノ監督、『バーニング』で李監督という韓国映画界の重鎮と仕事をし、重要な役柄を与えられた。ハリウッドではこうしたチャンスは与えられない?
『バーニング』を撮り終えて、「またこういう経験ができるだろうか、これほど自由に役作りできるのか」と自問した。アメリカでは型にはめられている感じがある。日常生活でもそうだ。「社会の中でのきみのポジションはここだよ」と決め付けられている感じがする。
――どういうイメージを押し付けられている?
ほかのアジア系俳優はどうか知らないが、僕の場合は善良で頼りになる地味な男だ。でも僕は韓国人としては地味なタイプじゃない。
――二枚目タイプ?
うーん、誰でも今の自分に自信を持つべきだと思うから、イエスと答えたいところだが、正直言ってノーだね。
――なぜ?
自己嫌悪かな。若いときはモテたかった。「なんで僕じゃダメなのか。アジア系だからか」と思っていた。で、自分に似つかわしくない方法でモテようと努力した。筋トレをして牛乳を飲んで、ワルのふりをして......。そうやって虚勢を張っているうちにバカらしくなった。自然体が一番だ。
――俳優のダニエル・へニーもミシガン州出身で韓国人の血を引いている。彼はキャリアの早い段階で韓国に渡り、韓国ドラマでブレイクした。韓国のほうが仕事をしやすいと思わない?
いや、それはない。この仕事を始めたときから、自分はここ(アメリカ)で勝負するぞ、と思っていた。
僕はアメリカ人だ。韓国系かと聞かれたら、そのとおり。韓国語を話せるか? イエス。韓国文化が自分の文化か? もちろん。でも、僕の居場所はここ。ここが僕の祖国だ。
<本誌2018年12月25日号掲載>
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