最新記事

インタビュー

いい人役を脱ぎ捨てたスティーブン・ユァンが開く新境地

Escaping Being “Other”

2019年1月8日(火)18時15分
インクー・カン

――試写会の舞台挨拶で、李監督を「映画の天才」と呼んでいたが、彼のどこに引かれる?

もちろん作品だ。『ペパーミント・キャンディー』を見て、自分が抱えている感情の正体が分かった。それは恨(ハン)だ〔注:外国語には翻訳できない、韓国人の民族的アイデンティティーの中核を成す悲痛な情念〕。

物心ついた頃から自分の中に説明のつかない怒りが渦巻いていた。周囲に対する恐れやアジア系の疎外感も多少は関係があるだろうが、それだけじゃない。僕は戦争を経験していないし、トラウマも抱えていない。どこから生まれる感情なのか分からなかったが、(映画を)見て、韓国人の国民的な体験がその根っこにあると気付いた。自分では届かなかった深い部分を、映画が見つめさせてくれた。

――親から子へと受け継がれるトラウマ?

そう。

――それは韓国人特有のもの?

キリスト教の原罪もそれと似ている。父親の罪が子孫に受け継がれていく。

――激烈な感情表現で知られる韓国映画には民族5000年の受苦が込められている?

そうだね、僕もそう思う。

――あなたは『オクジャ/okja』でポン・ジュノ監督、『バーニング』で李監督という韓国映画界の重鎮と仕事をし、重要な役柄を与えられた。ハリウッドではこうしたチャンスは与えられない?

『バーニング』を撮り終えて、「またこういう経験ができるだろうか、これほど自由に役作りできるのか」と自問した。アメリカでは型にはめられている感じがある。日常生活でもそうだ。「社会の中でのきみのポジションはここだよ」と決め付けられている感じがする。

――どういうイメージを押し付けられている?

ほかのアジア系俳優はどうか知らないが、僕の場合は善良で頼りになる地味な男だ。でも僕は韓国人としては地味なタイプじゃない。

――二枚目タイプ?

うーん、誰でも今の自分に自信を持つべきだと思うから、イエスと答えたいところだが、正直言ってノーだね。

――なぜ?

自己嫌悪かな。若いときはモテたかった。「なんで僕じゃダメなのか。アジア系だからか」と思っていた。で、自分に似つかわしくない方法でモテようと努力した。筋トレをして牛乳を飲んで、ワルのふりをして......。そうやって虚勢を張っているうちにバカらしくなった。自然体が一番だ。

――俳優のダニエル・へニーもミシガン州出身で韓国人の血を引いている。彼はキャリアの早い段階で韓国に渡り、韓国ドラマでブレイクした。韓国のほうが仕事をしやすいと思わない?

いや、それはない。この仕事を始めたときから、自分はここ(アメリカ)で勝負するぞ、と思っていた。

僕はアメリカ人だ。韓国系かと聞かれたら、そのとおり。韓国語を話せるか? イエス。韓国文化が自分の文化か? もちろん。でも、僕の居場所はここ。ここが僕の祖国だ。

<本誌2018年12月25日号掲載>


※12月25日号(12月18日発売)は「中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃」特集。あなたの知らない急成長動画SNS「TikTok(ティックトック)」の仕組み・経済圏・危険性。なぜ中国から世界に広がったのか。なぜ10代・20代はハマるのか。中国、日本、タイ、アメリカでの取材から、その「衝撃」を解き明かす――。

© 2019, Slate

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中