最新記事

韓国事情

海外投資、海外移住、国籍放棄......海外に目を向ける韓国の資金と人材

2019年1月7日(月)18時40分
佐々木和義

こうした動向の原因の一つは、最低賃金の引き上げと労働時間の週52時間上限制という文在寅政権の経済政策が中小企業の経営を圧迫しているためだ。韓国経済研究院のユ・ファンイク経営革新室長は、人材や海外経験の乏しい中小企業が海外に進出するリスクを考えても韓国にとどまるより良いとし、政府が賃金など労働分野で中小企業を縛る政策をやめなければ製造業が空洞化する懸念があると指摘する。

中小企業の海外投資は2012年の21億1696万ドルから2017年には74億2488万ドルへと5年間で3倍以上に増えており、2018年7月から9月期には四半期ベースで過去最高の30億3587万ドル(約3443億円)に達している。

日本に向かう移住者たち

海外移住を望む人も多い。プルデンシャル生命がソウルと5大都市に住む男女500人を対象に実施したアンケート調査で、回答者の60.4%が引退後に海外居住を望んでいると回答した(chosun.com)。

50代は49.5%で、40代63.7%、30代68.8%と年齢層が低くなるほど、海外居住に前向きだった。移住を希望する国は、豪州が16.8%で最も多く、カナダ14.4%、米国11.8%、ニュージーランド8.8%と英語圏が続いている。

直近10年間に韓国籍を放棄した人は20万人を超え、2018年には1月から10月の間に韓国籍を喪失・離脱した人が過去最高の3万284人に達した。セウォル号以後も多発するインフラの事故で「安全不感症」が慢性化していることへの不安と、一流大学に入らないと社会で生き残っていくのが難しい環境から逃れたいのだという。そして、兵役を強化する在外同胞法の改正も国籍離脱に拍車をかけた。

韓国籍を放棄した人が取得した国籍は米国が最も多く、日本が続いているが、2013年から17年の5年間、韓国外交部に移住申告した国は日本が最も多く、50.2%に達している。

就職難が続くなか、日本をはじめ海外に職を求める若者が増えているが、一旦、海外に出た韓国人は母国に戻らない傾向がある。海外に投資する資金の海外流出や産業の空洞化に加えて、人材の海外流出も加速している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

情報BOX:トランプ米大統領、3期目は可能か

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

アングル:大荒れだった1-3月の米国株、政策の不確

ワールド

マレーシアのペトロナス・ガスパイプラインで火災、3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中