中国、月裏側軟着陸成功――華麗なアメリカ、実利の中国
核融合発電は安全性が高く、高レベル放射性廃棄物も排出しないため、現在の核分裂反応を利用した原子力発電(原発)に代わる夢のエネルギーと位置付けられている。実用化までにはさまざまな実験が必要とされるが、中国は商業化に向けて本気で突き進んでおり、月面探査機の軟着陸成功も、この「人口太陽」とタイアップして行なわれたものである。
日本の核融合と中国の国家戦略「中国製造2025」
日本の岐阜県にある自然科学研究機構核融合科学研究所も2017年8月にプラズマのイオン温度を1億2千万度まで上げることに成功しているが、中国の国家戦略「中国製造2025」などに基づく戦略的資金投入などを考えると、あるいは中国が先んじることになるかもしれない。
昨年12月11日のコラム「習近平の狙いは月面軍事基地――世界で初めて月の裏側」に書いたように、中国の一義的目的は資源の採取だが、そのために月面資源基地を創り、それを拡大して月面軍事基地へと移行させていく可能性は否定できない。
拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』の第四章(習近平の「宇宙支配」戦略)あるいは「あとがき」(一帯一路一空一天)で触れたが、「中国製造2025」には、半導体の自給自足以外に宇宙開発があり、2022年までには中国独自の宇宙ステーションが宇宙を支配していくことを目的としている。2024年には日米などが主導してきた国際宇宙ステーションの寿命が尽きることを見越しての計算だ。
アメリカの華麗なフライバイ成功は夢があって心を躍らせるが、中国の月面の裏側への軟着陸成功は、何とも警戒心を抱かせるチャレンジである。核融合発電は人類により良い未来をもたらすものとして期待されるが、核融合もまた核武器として使われる危険性を孕んでいることにも留意しておこう。
宇宙開発を主導しているのは中国人民解放軍ではない
なお、日本の一部メディアは人民解放軍が中国の宇宙開発研究を主導していると報じているが、それは間違いだ。拙著でも少し触れているが、研究開発は主として中国科学院や中国科学技術大学などの研究機関で、製造しているのは国土資源部が管轄する国有企業「中国航天(宇宙)科工集団公司(CASIC)」と同じく国有企業「中国航天科技集団公司(CASC)」で、顧客が中国人民解放軍という関係になる。
管轄は「工業和信息部(工業情報部)」の下にある「国防科技工業局」で、その下に「中国国家航天局(国家宇宙局)」があり、宇宙はこの国家航天局が管轄する。その中に「探月航天工程センター」があり、月面関係を管轄している。中国人民解放軍ともタイアップしている部分があるが、中国人民解放軍が主導しているわけではない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。