最新記事

イギリス

【EU離脱】一人ぼっちになったイギリスを待つ悪夢

The Beginning of the End of Britain’s Brexit Fantasy

2019年1月16日(水)17時55分
マイケル・ハーシュ、キース・ジョンソン

最初からEU離脱派を後押ししてきたトランプの存在は、メイにとって災厄そのものだ。ただでさえ困難をきわめる今後のプロセスが、トランプのせいでさらに困難なものになっている。昨年、トランプはメイのEU離脱案を「EU側に有利な協定」と呼び、メイに不意打ちをくらわせた。そのうえで、メイの離脱案には21カ月の移行期間が必要となりそうだということもあって、イギリスとアメリカの独自の貿易協定の締結が妨げられる可能性があると懸念を表明した。

「トランプは、どんな取引でもアメリカを最優先することを明らかにした」と、リーは言う。「アメリカは、以前のTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)の交渉で浮上したすべての問題について、イギリスに妥協を迫ってくるだろう」

TTIP交渉は、バラク・オバマ元大統領のもとで開始し、他の多国籍貿易協定を望むトランプが反故にした。リーによれば、これまでの交渉で争点になっているのは、植物検疫の規制、鶏肉の塩素処理、牛肉中のホルモン、米医療サービス会社によるイギリスの国民健康保険へのアクセスなど。「これらの問題がすべて、蒸し返されることになる」

さらに言えば、孤立したイギリスは、どの国にとっても最優先の問題にはならない。たとえば、オーストラリアとニュージーランドは現在、EUと貿易協議を進めており、イギリスとの協議より優先しているとリーは言う。4億5000万人の市場は、6500万人の市場よりも重要だ。

EUはイギリス抜きでやっていく

アジアに慰めを見いだすこともできない。インドはもっと多くのビザの発行を求めているが、ブレグジットしたイギリスには不可能な要求だ。そして、プリンストン大学の政治経済学者ハロルド・ジェームズによると、トランプの関税戦争のため四面楚歌状態とみられる中国の政権と新たに協定を結ぶことも「現時点ではとても難しい」。

ブレグジットの成り行きがどうなるにせよ、EUで、アメリカで、そして世界中で、イギリスに対する信頼性は大きく損なわれたと、アナリストらは言う。EUがメイと交渉を重ねて作り上げた離脱協定が、EU脱退後はイギリスの発言権が奪われるような内容で、その結果メイが破滅することになる内容であったことからすると、EU本部はもはや、イギリスを引き留める気はないのかもしれない。

「ある意味では、ヨーロッパはすでにイギリス抜きでやっていく準備をしている」とジェームズは言う。欧州議会選挙を5月に控え、EU本部はヨーロッパの反EU派を勢いづかせるようなことはしたがらない。たとえイギリス政府がブレグジットへの賛否について2度目の国民投票を行うことを決心したとしても(その可能性はないわけではない)、ヨーロッパの主要国は懐疑的だろう。

「新たな国民投票の効果については、かなり疑わしい」とジェームズは言う。 「もう一度やったら、またもう一度、さらにもう一度とならないだろうか?」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送ウクライナのエネ相が辞任、司法相は職務停止 大

ワールド

再送ウクライナのエネ相が辞任、司法相は職務停止 大

ワールド

米アトランタ連銀総裁、任期満了で来年2月退任 初の

ワールド

トランプ氏、ネタニヤフ氏への恩赦要請 イスラエル大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中