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水資源アメリカの34%の河川で塩分濃度が上昇していた
酸性雨が流れ出たアパラチア山脈の川 kstevecope-iStock
<世界各地で河川の塩分濃度が上昇し、このため生物多様性が脅かされ、人間の健康をも害するおそれが懸念されている>
昆虫を含むいくつかの種が死滅する可能性も
河川の塩分濃度は、地質や気候といった自然的要因のみならず、開墾や灌漑、農業、化石燃料の採掘など、人為的要因にも大いに影響されるものだ。近年、世界各地で河川の塩分濃度が上昇し、これによって生物多様性が脅かされ、私たち人間の健康をも害するおそれが懸念されている。
米砂漠研究所(DRI)のジョン・オルスン博士は、米国内2001カ所を対象に、米環境保護庁(EPA)が計測した電気伝導率(EC)のデータを使って河川の塩分濃度を解析し、2018年12月3日、ロンドン王立協会の学術雑誌「フィロソフィカル・トランザクションズ」でその研究結果を発表した。これによると、過去25年間で、米国の河川の少なくとも34%の地点で塩分濃度が上昇しており、2100年までにはその割合が50%を超えると予測されている。
とりわけ上昇幅が大きかった地域は、産業が発達している北東部と農業がさかんな中西部で、最も塩分濃度が高かったのは、農業地帯が広がり、化石燃料の採掘も行われているロッキー山脈東方のグレートプレーンズ(大草原地帯)であった。
ニューヨークをはじめとする北東部で塩分濃度が上昇していることは、米メリーランド大学バルティモアカウンティ校を中心とする研究チームが2005年9月に発表した研究論文でも示されている。
欧州やオーストラリアでも
河川の塩分濃度が上昇しているのは、米国のみにとどまらない。スペインのバルセロナ大学の研究チームが2013年1月に発表した研究結果によると、オーストラリアの河川で極めて高い塩分濃度が観測されたほか、スペインをはじめ、欧州でも、人為的要因によって河川の塩分濃度が上昇している。たとえば、イベリア半島北東部のエブロ川では、土壌の特性に加え、農業の影響で、オーストラリアよりも塩分濃度が高くなっており、スペイン南東部のムルシアでは、過剰取水の結果、河川の塩分濃度が上昇している。
塩分が飲料水にも含まれ、健康を脅かす
飲用水に含まれる塩分は、私たちの健康を脅かすおそれがある。とりわけ高血圧患者は注意が必要だ。米環境保護庁では、飲用水に含まれる塩分のモニタリングを義務づけ、1リットルあたり20ミリグラム超のナトリウムが検出された場合は、各地域の保健当局に報告することになっている。
また、塩分濃度の上昇は、農業にも影響を及ぼす。米カーネギーメロン大学の研究チームが2014年時点でのカリフォルニア州の農業への影響を分析したところ、その損失は年間17億ドル(約1929億円)から70億ドル(約7944億円)にのぼるとみられている。
淡水の塩分濃度の上昇を防ぐための法規制が整っていない
このように、河川の塩分濃度の上昇が、生物多様性を脅かし、昆虫を含むいくつかの種が死滅する可能性があり、私たちの日常生活や経済活動に影響をもたらしているにもかかわらず、米国では、連邦レベルでこれを抑制するための法律や規制がまだ整っていない。
米レンセラー工科大学の研究チームは、2018年12月、「フィロソフィカル・トランザクションズ」に掲載された意見論文において「現行の規制は、地域ごとに一貫性がなく、詳細な基準もない」と現状を評価したうえで「淡水の塩分濃度の上昇を防ぐためには、法規制と運用管理のためのガイドライン、そして、これらに基づく総合的なモニタリングが必要だ」と説いている。