最新記事

テクノロジー

ファーウェイ事件で幕を開けた米中5G覇権争い

Behind the Huawei Arrest

2018年12月20日(木)15時50分
山田敏弘(国際ジャーナリスト、マサチューセッツ工科大学〔MIT〕元安全保障フェロー)

5Gは4Gの100倍とも言われるほど超高速の通信を可能にし、生活のほとんどがIoT(モノのインターネット)などを介してネットワークで接続される。インフラ、医療、産業、サービス、教育といった分野から、政府や軍、軍事産業などもつながっていく。個人の健康状態から家計、朝ご飯のメニューまで、全てがネットワークを介して記録されていくだろう。

5Gのインパクトは計り知れない。特に安全保障面で、世界各国が対応についての協議を急いでいる。筆者が最近入手した米政府の内部文書は、「5Gは、単純に現在の4Gより速い速度の通信、ということではない。この次世代の通信技術は、アメリカを世界中の競合から一歩抜け出すことを可能にし、米国民に安全で信頼できるインフラを提供することになる」と指摘。その上でこう警鐘を鳴らしている。「5Gはチャンスなのだ。このチャンスを手にしなければ、中国が政治や経済、そして軍事でも勝利することになる」

サイバー掌握は抑止力にも

中国は、インターネットなどのインフラにおける覇権を狙ってきた。政府は、世界各地で通信機器や電話やデータの基地局などに、中国製品が導入されるよう後押し。米政府に言わせれば、中国はライバルから盗んだ知財で品質を向上させながら、そのライバルよりも数段低い価格設定で商売をしている。

そのおかげで、5Gのインフラ機器のシェアでも中国は現在、優勢になっている。先述の米政府の内部文書によれば、「中国は、ファーウェイが国外で同社製品の導入契約を推し進めることができるよう、融資額の限度を1000億ドルに拡大している。中国は積極的な価格設定、外交的なサポート、国外における贈賄(と疑われるもの)などの手段を合わせて、光ファイバーやルーター、さらに無線インフラ分野であっという間に市場シェアを獲得した。それにより、5G市場におけるリーダーシップも手中に収めようとしている」。

また、ファーウェイは早くから5Gの技術開発にも乗り出し、09年以降6億ドル以上の研究費を投入。数多くの特許も取得している。17年時点で、5Gネットワークに必要となる重要な特許1450件のうち、10%はファーウェイなど中国企業の技術が占めている。いち早くシェアを確保して市場の主導権を既成事実化するだけでなく、5G時代に不可欠な特許技術も押さえておこうという戦略だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米当局、エヌビディア製半導体密輸の疑いで中国人2人

ワールド

一国の経済財政担う者として金利や為替は当然注視=高

ビジネス

豪中銀、予想通り政策金利据え置き 利上げ急がない姿

ビジネス

香港、IPO申請の質の維持を投資銀行に要請 上場急
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中