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地球温暖化【地球温暖化時計】「1.5度」までのカウントダウン
The Climate Clock: Counting down to 1.5℃
人類に残された時間はあと16年? jokerpro-iStock.
<温暖化の連鎖が止められなくなる「プラス1.5度」。それまでに残された時間を表示する「温暖化時計」の仕掛人たちが語る数値に込められた思い>
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がこの秋に発表した「1.5度の地球温暖化に関する特別報告書」を読めば、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前から1.5度以内に抑えることがいかに重要かよく分かる。だが今年、二酸化炭素(CO2)排出量は2年連続で増加することが予測されている。このペースが続けば、地球温暖化は16年も経たないうちにこの「1.5度の壁」を越えてしまう。
筆者らが作成した「温暖化時計」は、今のCO2の排出ペースが続いた場合にこの1.5度の壁を越えるまでに残された時間がどれほどあるかを示すものだ。年に1度更新しており、今年は12月5日以降、新しい科学的データを用いた最新版が表示されている。
IPCCの特別報告書では、気候へのさまざまな影響を鑑みて1.5度上昇というラインが重要であることが示されていた。地球の気温が上がれば上がるほど、熱波や豪雨が増えることが想定される。氷床の不可逆な喪失(および、その結果としての海水面の上昇)のリスクは1.5度と2度の間で急激に上がるし、平均気温が2度上昇すればほとんどすべてのサンゴは死滅する。
IPCCの特別報告書とグローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)の最新データのどちらを見ても、1.5度越えまであと16年もない。特別報告書では、温暖化が今のペースで続けば「12~35年以内」に上昇幅は1.5度に達するとしている。だが特別報告書と異なり、温暖化時計では、温暖化を加速するガスの排出量が今も増えているという事実を重視している。
排出量が増えなければ1年先送り
温暖化時計は、進みゆく地球温暖化のカウントダウン、そして緩和策の進捗具合の指標として2015年にスタートした。もしCO2の排出が増え続ければ、1.5度の壁を越える日は近くなるし、排出が減り始めればその日は遠ざかる。
2016年までの3年間、CO2排出量は横ばいだった。排出量が増えなければ、1.5度の壁を越える日は1年遠ざかる。
だが2017年は排出量が増え、1.5度越えの日は4カ月分近づいた。今年の排出量は2.7%の増加が見込まれている。これは2011年以降最大の増加で、1.5度越えの日はさらに8カ月近づく計算だ。
今年のデータ更新では、IPCCの特別報告書の「カーボンバジェット」に関する新たな推計値も計算に取り入れた。これは1.5度の壁を越えるまでの間に認められるCO2排出量の総量で、今回、7700億トンと上方修正された。つまり1.5度越えは2年以上先になる計算だ。これを今年のCO2排出量の増加の影響と相殺すると2034年末という日が弾き出される。
温暖化時計はこんな問いの答えにもなる。「現在の排出量のペースと人間由来の温暖化の水準、そして過去5年間の排出量の流れが今後も続くと想定した場合、カーボンバジェットを使い切るまでにどのくらいかかるのか?」
1870年以降現在までに人間の活動が生み出してきたCO2の総量は2兆3000億トン近い。これは化石燃料の燃焼と森林伐採の結果だ。CO2以外の温暖化ガス排出もあって、すでに地球の平均気温は1850~1900年の平均と比べ1.06度上昇している。過去5年間、年間CO2排出量は平均4億トン増えており、今年は371億トンに達すると見られている。
温暖化時計を作成するにあたり、われわれはこの5年間の化石燃料由来のCO2排出の増加ペースが今後も続き、森林伐採や土地利用の変化によるCO2排出は最近の5年間の平均(年53億トン)を維持すると仮定した。またIPCCのカーボンバジェットの推計を使うことで、今から1.5度の壁を越えるまでの温暖化のうち、メタンや一酸化二窒素といったCO2以外の温室効果ガスが原因となるのは約25%と仮定した。
1.5度越えまでの時間はCO2排出が気候に与える影響に関わる不確定要素に左右されるが、それでもわれわれの推計は最良のものだ。つまり温暖化時計が示す日付よりも早く1.5度の壁を越える確率は50%で、同様にそれより先である可能性も50%ということだ。
カウントダウンはどれほど正確か?
残り時間を多く見積もり過ぎていないと自信を持って言えるよう、カーボンバジェットに関するもっと厳しい推計値を使うこともできた。例えばカーボンバジェットの残りを7700億トンではなく5700億トンだと考えると、1.5度越えは4年早まって2030年になる。言い換えれば、残り時間を多く見積もり過ぎていない確率は50%から67%に高まる。
地球の気温をどうやって定義するかによっても、残り時間は左右される。われわれが採用したのは世界気象機関(WMO)の定義に基づく地球の気温だ。その算出方法は観測に空白域があり、陸上と海洋上の大気温度の両方を合わせることで地表面温度を推定する。もしわれわれが、陸上の大気温度のみに基づき地球の全表面積をカバーする推定気温を採用すれば──それには「気候モデル」もしくは既存の気温データ群をもとに未知の気温を予測する「内挿」のいずれかの手段が必要になってくる──残された炭素予算は7700億トンから5800億トンへと縮小し、気温上昇が1.5度に達するまでの残り時間が4年早まる。
時間を遅らせる方法は?
おそらく最も重要で不確かな問題は、CO2や温暖化ガス排出量の削減に世界がどれほど真剣に取り組むかだ。当然、もし化石燃料の消費拡大でCO2排出量が増え続ければ、現在から1.5度上昇まで残された時間は減る一方だ。もし森林伐採やメタンガスの排出を加速させても同様の結果になる。
現在、各国が定めた温室効果ガス削減目標は、気温上昇を1.5度に抑えるには不十分だ。もし全ての国が2030年までの目標を達成しても、1.5度上昇までの残り時間は半年しか稼げない。同様に、CO2排出量を現在と同じレベルに抑えても、わずか14カ月の時間稼ぎにしかならない。
もし2080年までにCO2排出量をゼロにすれば、気温上昇を2度未満に抑えられるかもしれないが、それでも2040年までに1.5度は上昇するだろう。1.5度未満に抑えるには、化石燃料によるCO2の排出量と森林伐採を2050年までにゼロにする必要がある。
1.5度以上の気温上昇による衝撃を避けるためには、個人やビジネス、政府が互いに協力し、あらゆるレベルの意思決定において温暖化対策を優先させなければならない。温暖化による最も危険な結末を避けるために十分な時間を稼ぐには、人類が大胆かつ野心的な行動を取るしかない。
途方もない挑戦だし、成功しないかもしれない。だがこれまでよりはるかに頑張らなければ、失敗は目に見えている。
(翻訳:村井裕美・河原里香)
David Usher, musician and director of the Human Impact Lab, is the co-creator of the Climate Clock.
H. Damon Matthews, Professor and Concordia University Research Chair in Climate Science and Sustainability, Concordia University; Glen Peters, Research Director, Center for International Climate and Environment Research - Oslo; Myles Allen, Professor of Geosystem Science, Leader of ECI Climate Research Programme, University of Oxford, and Piers Forster, Professor of Physical Climate Change; Director of the Priestley International Centre for Climate, University of Leeds
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.