最新記事

情報セキュリティー

ブロックチェーンが患者の情報を守る切り札に

HI-TECH RECORD PROTECTION

2018年11月30日(金)16時30分
イアン・アリソン

流出した大量の患者データが闇サイトで売買されることも多い spxChrome/iStock.

<完全な電子社会に移行したエストニアで医療記録の漏洩を防止するには......>

毎年、多くの医療関連企業がハッカーによるサイバー攻撃の被害に遭っている。流出した大量の患者データは闇サイトで売買されることが多い。ランサムウエアやフィッシングなど攻撃手段が高度化し、情報漏洩の事例が増えるなか、事業者は患者の個人情報を守るため、ブロックチェーンのような新技術に注目している。

この分野で大きな実績を上げている企業の1つがガードタイム。エストニア当局と協力し、100万件以上の医療記録を漏洩から守っている。

ガードタイムが使っているのはブロックチェーン技術の1つ「キーレス署名基盤(KSI)」だ。これにより、認証局に依存しないで大量データの認証が可能になった。

「わが社のシステムが通すのは署名だけなので、患者のプライバシーは保障される。不正な操作はリアルタイムで検知できる。わが社はソリューションの開発で同業他社と大きく水をあけている」と、アメリカの安全保障の専門家からガードタイムの最高技術責任者(CTO)に転じたマット・ジョンソンは言う。

エストニアはこの20年間、デジタル社会の建設に向けた技術革新の最先端を走ってきた。国民の大半が公開鍵基盤(PKI)を用いたスマートカードを持ち、1000を超える電子政府サービスにアクセスできる国などエストニア以外にはない。電子医療記録も電子政府サービスの重要な一部だ。

国民はそれぞれに認証用IDを持っており、IDと医療記録をひも付けることができる。ブロックチェーン技術のおかげで、医師や病院が患者の医療記録に何をどのように書き加えたかという経過がはっきりと残るため、医療記録の扱い方に関する契約の遵守を促す効果もある。

エストニア政府とガードタイムが正式に協力を始めたのは11年。データを保全するとともに内部関係者による情報漏洩の可能性をなくし、情報システムの運営者を保護するために政府がKSIを用いたブロックチェーンの採用を始めた時だった。「われわれが処理し保存する情報を確実に守ることは、エストニアの電子政府と人々の生活にとって必要不可欠だ」と語るのは、エストニアの情報システム当局の責任者であるタイマル・ペテルコプだ。

「ミスは許されない。外側を守るセキュリティーと関係者の善意だけに依存するのは許し難いほど無邪気過ぎる。われわれはデータについてもシステムについても独立した保全の方法を必要としており、この点においてブロックチェーンは大いに役に立っている」

もっとも、協力がうまくいったのはエストニアが完全な電子社会だったからだ。「他の国の政府には、紙の書類による手続きといった要因のおかげで数多くの制限がある。エストニアでは電子政府が社会全体を包み込むように存在し、新たなサービスはインターネットを介して導入される。わが社の技術を新たな国民向けサービスに取り入れるのは自然の成り行きだった」とジョンソンは言う。

<本誌2018年11月20日号掲載>


※11月20日号(11月13日売り)は「ここまで来た AI医療」特集。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」として人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中