最新記事

地球温暖化

目に見えぬ環境危機、海の生物に何が起きているか?

2018年11月11日(日)12時16分

水面下で起きている変化は学術上の問題ではない。国連食糧農業機関(FAO)によると、漁業は世界で年間1400億─1500億ドル(約16兆─17兆円)のビジネスとなっている。一部の国では、海産物は普通の人の食事の半分を占める。

だが、世界各地の海で起きているこのような大規模な生物の移動による影響は、より身近な性質のものだ。

米メーン州のロブスター漁師やノースカロライナ州の漁師の暮らしが危ぶまれている。イワシを食べるポルトガル人や海産物が大好きな日本人の文化遺産も危機に瀕(ひん)している。気候変動が一因となって急成長している水産養殖産業は、西アフリカの伝統的な漁業を崩壊させ、東南アジア沿岸部のマングローブ生育地を破壊している。

以下に、各地の状況を簡単に説明する。

●日本

日本近海では過去100年において平均海面水温が約1.11度上昇した。これは世界全体の伸び(0.54度)より大きい。海水温が上昇した海域を避けようとしてスルメイカが北上しているため、漁獲量が減り、価格が上昇している。イカ釣りで知られる函館などの漁師だけでなく、すし店や海産物を愛する国民の暮らしに打撃を与えている。

米ノースカロライナ州

約40年前、ここはナツヒラメが大量に確認される生息地だった。だが近年では、40キロ北方で見つかることが多い。

●米メーン州

1980年代と90年代は、米国で獲れるロブスターのうちメーン州産は50%だったが、今では85%近くに上る。

●ポルトガル

スペインのガリシア州からポルトガル南部に至る大西洋沿岸地域にかけて生息するイワシは、ほぼ壊滅状態にある。

●ノルウェー

より多くのサケ養殖業者が北極圏への移動を余儀なくされる可能性がある。

モーリタニア

セネガル沖とモーリタニア沖の海水温上昇により、1995年以降、イワシの仲間は320キロ以上の北上を余儀なくされた。

●マレーシア

赤道付近の生物は、より高緯度に生息する耐寒性のある同類と比べて、穏やかな温度上昇にも耐えるのが困難な可能性がある。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)



Maurice Tamman and Matthew Green
[30日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中外相が対面で初会談、「相違点の管理」で合意 協

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中