最新記事

旧植民地

仏領ニューカレドニアの差別と血に濡れた独立運動

2018年11月8日(木)18時10分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

2003年、ニューカレドニアを訪れ、先住民の歓迎を受けるシラク仏大統領(当時) Philippe Wojazer-REUTERS

<新婚旅行の人気スポット、南太平洋のニューカレドニアで行われた住民投票は、急に降って湧いたわけではない>

11月4日、ニューカレドニアで、フランスからの独立の是非を問う住民投票が行われた。80.63%という高い投票率のもと、賛成が43.6%、反対が56.40%で独立は否決された。

仏本土とは10時間の時差があり、フランス在住の筆者も20時のニュースでは詳報が見られるものと、きわめて個人的な理由で楽しみにしていた。

30年ほど前、ニューカレドニアは独立をめぐって内戦の様相を呈していた。1985年、独立派は「カナキー(ニューカレドニアの別名)暫定政府」の樹立を宣言。もちろんフランスは認めない。

1988年4月には、ウベアという島の軍警察署が襲撃され、27人のフランス憲兵隊員と判事1名が洞窟に監禁された。5月5日、軍と警察特殊部隊が突入し、犯人19人が蜂の巣にされて死亡、フランス側も2名が死亡した。

当時はちょうど、現職のミッテラン大統領とシラク首相の一騎打ちとなった大統領選挙の決選投票前だったが、両候補共、この作戦を見守った。選挙はミッテランが勝ち、総選挙でギリギリの過半数になった社会党中道連立政権のロカール首相が6月26日、ニューカレドニアの独立派と残留派のトップをパリに呼んで徹夜の会談を行い、独立派の自治を拡大するマティニョン合意が成立した。

なかなか日本では見られない政治のダイナミクスに驚かされた。

領土の一体性にこだわるフランス

当時は、独立派の指導者ジャン=マリー・チバウ氏を日本の右翼が支援しているという情報が入って取材を始めたところだった。日本はちょうどバブルで、しかも右翼に近い日本の保守系政治家も、インドネシアでしたのと同じように独立派に取り入って利権を握ろうとニューカレドニアの政情に関心を持っていたのである。

ところが、ウベア事件から1年後、チバウ氏は暗殺されてしまった。独立派のなかにはマティニョン合意に不満を抱く者もいて、仲間に裏切られたものだ。

その後、1998年5月5日 マティニョン合意を補完するヌメア協定が結ばれ、ニューカレドニアは「特別共同体」となった。フランスの旧植民地には海外県と海外領土というステイタスがあるが、それよりも自治権が高く、外交軍事司法などをのぞいて内政に関する権限はほぼすべて譲渡するもので、英国やオランダ領なら「実質的独立」にしてタックスヘイブンになっただろう。フランスは、形式だけでも領土の一体性にこだわる。

その協定の中で、2018年までに独立の賛否についての住民投票を行うことが決まっており、今回の投票となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中