最新記事

中米移民

移民キャラバンのLGBTカップル7組、国境で涙の結婚式

LGBT Couples With Migrant Caravan Hold Symbolic Wedding

2018年11月20日(火)16時25分
シャンダル・ダ・シルバ

メキシコ側から国境の塀越しにアメリカ側を見る移民たち Jorge Duenes-REUTERS

<LGBTが激しい暴力や差別にさらされる中米の国々では不可能だった結婚式の夢がやっとかなった。ただこの先はトランプの領分だ>

苦難の旅を経てアメリカとメキシコの国境にたどり着いた数千人の中米からの移民キャラバンの中から、少なくとも7組のLGBTカップルが11月18日、国境の町ティファナで開かれた集団結婚式に参列し、人々の前で愛を誓った。

英紙テレグラフが撮影した動画は、グアテマラ出身のペドロ・ネミアス・パストール・デレオンと、ホンジュラス出身のエリック・アレクサンダー・デュラン・レイエスのカップルが結婚指輪を交換し、ブーケトスをする様子をとらえている。カップルのひとりは同紙に対し、「夢が叶った。私たちの国ではこんなことはありえない。(結婚を)ずっと願っていた。ようやく機会に恵まれ、とても幸せだ」と語った。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、中米諸国に住むLGBTの人々は、より激しい暴力や差別に悩まされている。

2017年にアムネスティ・インターナショナルが公表したレポートは、「暴力事件が多発するエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスに住むレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの人々は、生命の危険にさらされている」と警鐘を鳴らしている。

これら3カ国の当局は、LGBTコミュニティを保護できておらず、住民は「逃げるしかない」状況にあると、このレポートは言う。

キャラバンの中でも差別

アムネスティ・インターナショナルが2017年に話を聞いたLGBTの亡命希望者の話によると、彼らは母国で絶え間ない差別や、身体的・精神的暴力を受け、犯罪組織に金銭を強奪され、さらには殺人の危険にさらされることもあるという。

LGBTの人権を守るために活動するホンジュラスの非営利団体「Cattrachas」によれば、同国で2009年から2017年のあいだに殺害されたLGBTは275人に上る。アムネスティはレポートのなかで、そうした殺人事件の加害者が法の裁きを受けることは滅多にないとしている。

11月12日、カリフォルニア州サンディエゴと国境を隔てるメキシコのティファナに、そうした環境から逃げてきた約80人のLGBTグループが到着した。彼らは国境にたどり着いた第1陣となった。

彼らの話では、ほかの移民から差別を受けたため、メキシコシティで大規模キャラバンから離脱したという。

その後、何千人ものほかの移民たちもティファナに到着した。すると今度は、地元住民からは抗議の声があがった。

ティファナの住民は11月18日、キャラバンに対する抗議活動を行った。メキシコ国旗を振りながら国家を歌い、「出ていけ! 出ていけ!」の大合唱をしたと、英紙ガーディアンは伝えている。

彼らはアメリカに難民申請をするためこの国境までやってきた。だがアメリカ側のサン・イーサイドロにある検問所では、1日に約100人しか申請を受け付けず、数週間は足止めを食らうことになりそうだ。何とか壁が突破できたとしても、向こう側にはアメリカの国境警備隊やトランプ米大統領命で派遣された米軍が待ち受ける。

やっと結婚式を挙げることができた7組のLGBTカップルにとっても、この先が本当の難所になるかもしれない。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中