最新記事

宇宙

宇宙旅行が脳に不可逆的変化をもたらす......ISS滞在飛行士の調査で判明

2018年11月2日(金)18時55分
高森郁哉

長期にわたる微少重力に脳が影響を受ける NASA-REUTERS

<国際宇宙ステーションに平均6ヶ月滞在した宇宙飛行士の脳の状態を調べたところ、灰白質の体積が帰還直後に減少したり、脳脊髄液が増加するなどの変化が現れることがわかった>

国際宇宙ステーション(ISS)から帰還した宇宙飛行士を対象にした調査で、長期にわたる微少重力に脳が影響を受け、その影響が半年以上たっても残る可能性があることが明らかになった。

宇宙飛行士10人を調査

ベルギー、ロシア、ドイツの国際研究チームによる論文が学術誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に掲載され、医学系メディア「Medical Xpress」などが報じた

チームは、男性宇宙飛行士10名(平均年齢44歳、平均宇宙ミッション期間189日)を対象に調査を実施。飛行前、帰還直後(平均で9日後)、帰還の約7カ月後(平均で209日後、この調査のみ7人で実施)という3つの時点における脳の状態を、磁気共鳴画像法(MRI)で撮影して調べた。

これらのデータによると、脳の灰白質(主にニューロンの細胞体で構成される大脳皮質の部分)の体積が帰還直後、前頭眼窩野と頭葉皮質で広範囲にわたって減少し、右中側頭回では最大で3.3%減少していた。7カ月後には大部分で灰白質の体積が飛行前の水準に回復していたものの、右中側頭回では1.2%減少した状態にとどまったという。

白質(主に神経線維で構成される脳の部分)についても、帰還直後に左側頭葉で体積の減少が見られ、7カ月後には大脳で全体的に減少していた。一方で、脳半球と脳室の脳脊髄液(CSF)は帰還直後に増加し(第3脳室で最大12.9%増)、7カ月後には飛行前の値に戻りつつあったが、蜘蛛膜下全体の脳脊髄液は7カ月後に増加していた。

nejmc1809011_f1.jpeg

研究者らは、こうした宇宙での長期滞在による脳の変化は、帰還した宇宙飛行士の一部が訴えた視力低下などの視覚異常と関係する可能性があると指摘。また、長期ミッションの健康リスクを減らすために、より広範な調査が必要だとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中