最新記事

神経科学

「鼻呼吸すると記憶力が高まる」という研究結果が発表された

2018年10月29日(月)19時10分
松岡由希子

瞑想やヨガでは、呼吸の重要性が強調されてきた fizkes-iStock

<ヒトの記憶の想起や強化において鼻呼吸が重要な役割を果たしていることを示す研究結果が初めて明らかとなった>

私たちの記憶のプロセスは、入力された感覚刺激を意味情報に変換して保持する「記銘」、これらの情報を保存する「保持」、情報を思い出す「想起」という3つのステップに大別される。これまでの研究成果によれば、記銘や想起に関連する神経機構において呼吸が重要な役割を担っており、とりわけ鼻呼吸は、記銘や想起のプロセスを強化する神経振動子と同調していると考えられてきた。

そしてこのほど、ヒトの記憶の想起や強化において鼻呼吸が重要な役割を果たしていることを示す研究結果が初めて明らかとなった。

鼻呼吸するグループと口呼吸するグループにわけ1時間

スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究チームは、2018年10月22日、神経科学専門の学術雑誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」で、臭いの記憶の保持における呼吸の作用について研究論文を発表した。これによると「口呼吸よりも鼻呼吸のほうが臭いをより正しく記憶できた」という。

この検証実験では、19歳から25歳までのスウェーデン人の男女24名を被験者として、イチゴなどの一般的な臭い6種類と1-ブタノールを含む珍しい臭い6種類を嗅がせ、これらを覚えさせた。口にテープを貼って鼻呼吸するグループと口呼吸するグループにわけ、それぞれ1時間、休息させた後、さらに12種類の臭いを嗅がせ、休息前に嗅いだ臭いかどうかを当てるテストを実施した。

その結果、鼻呼吸で休息した被験者は、口呼吸の被験者に比べて、明らかに記憶の想起が優れていた。研究チームでは、この実験結果について「呼吸が記憶の保持に直接影響していることを示しており、『認知機能は呼吸周期によって調整されている』という見解を裏付けるものだ」と評価している。

瞑想やヨガで強調されてきた呼吸の重要性

嗅覚をつかさどる「嗅球」の受容体は、臭いだけでなく、気流の変化も検知し、吸気と呼気で脳の異なる部分が活性化するとみられているが、呼吸と脳の働きとの同期がどのように起こり、これが脳や行動にどのような影響をもたらしているのかは、まだ明らかになっていない。

研究論文の筆頭著者であるカロリンスカ研究所のアルティン・アーシャミアン准教授は「呼吸している間に脳で何が起こっているのかを調べることが次のステップだ。現在、電極を脳に挿入せずに、嗅球の働きを測定する新たな手段を開発している」と述べている。

長年、瞑想やヨガなどの分野では、呼吸の重要性が強調されてきたが、この研究結果はこの作用を科学的に示したものとして、注目されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7

ワールド

ロシアのミサイル「ICBMでない」と西側当局者、情

ワールド

トルコ中銀、主要金利50%に据え置き 12月の利下

ワールド

レバノン、停戦案修正を要求 イスラエルの即時撤退と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中