最新記事

貿易摩擦

米中通貨戦争へカウントダウン開始

U.S.-China Currency Clash

2018年10月13日(土)11時30分
キース・ジョンソン

米政府による対中関税は、これから一層厳しくなるとみられている。トランプは9月下旬、中国製品2000億ドル相当を対象に10%の追加関税を発動している。来年1月には、この税率が25%にまで引き上げられる可能性が高い。

加えてトランプは、さらに2670億ドル相当の中国製品に追加関税を課す用意があると表明している。そうなれば、中国からアメリカへの輸出品ほぼ全てが関税の対象となる。

このため、中国国内では貿易問題における強硬派の主張が受け入れられつつあるとブルックスは指摘する。「関税率が25%に引き上げられれば、強硬派の発言力が増すだろう」

トランプは9月26日の国連安保理事会の会合で、中国との貿易問題について「わが国はあらゆるレベルで勝利している」と発言した。しかし中国の王毅(ワン・イー)外相は「中国は脅迫や圧力に屈しない」と対決姿勢を鮮明にしている。この先、中国が通貨切り下げに踏み切り、米中間の緊張がさらに高まる可能性がある。

しかし、それ以上の元の下落は中国にとってリスクとなる。中国政府はこの夏、元の安定を図るため対ドルレートは1ドル=7元の手前で元安抑止策を講じた。中国政府が介入しないという判断を下せば、貯蓄を持つ中国国民と国内の株式市場は動揺し、政府の問題解決能力も損なわれかねない。

「中国政府にとって厄介なのは、元がさらに下落すれば、政策を変更した表れと受け取られかねないことだ。その境界がどこにあるのかははっきりしない」と、バラク・オバマ前米大統領の下で経済問題を担当していたブラッド・セッツァーは言う。

「数カ月前に比べて中国政府に制約があるのは、その頃より今ここで下す決断のほうがはるかに重大なためだ。米政府が中国からの輸入品の大半に25%の関税を追加すれば、それも大きな影響を与える」

為替操作を求める皮肉

中国政府にとって、元を下落するまま放置しておけばメリットとなる点はある。下落幅にもよるが、米政府に課される関税の大半が相殺され、中国の輸出品は貿易戦争が始まる以前と同じような競争力を持つことになる。この点は、アメリカの関税による悪影響が中国経済にじわじわ浸透し始めた今、見逃せないところだ。

元の下落に中国政府が関心を寄せると思われる理由は、ほかにもある。元が下落すれば、アメリカを含め世界中の証券市場に影響を及ぼしかねない。中国が15年夏に元の切り下げを行ったときは、世界中の市場が暴落した。トランプは株式市場の暴落に無関心ではいられないはずだと、ブルックスは言う。

「中国政府内で通商問題の強硬派が優勢になれば、彼らはこう主張するかもしれない。関税を相殺するには、元を低めに誘導する必要がある。そして、われわれに市場を動揺させることができるなら、アメリカの大統領の決断も揺るがすことができるかもしれない、と」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月CPIは前年比3.0%上昇、利下げ観測継続 

ワールド

カナダ首相、米と貿易交渉再開の用意 問題広告は週明

ワールド

トランプ大統領、中南米に空母派遣へ 軍事プレゼンス

ワールド

米朝首脳会談の実現呼びかけ、韓国統一相、関係改善期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中