最新記事

中国政治

中国、無秩序開発のダム撤去で環境保護へ 一方で大規模水力発電は規制せず

2018年9月5日(水)11時33分

規模の重み

中国審計署(会計検査院に相当)は6月、長江流域の11地域にある小規模水力発電所2万4100件を特定し、その「歴史的な貢献」を評価する一方で、現在は環境コストが高すぎる状態だと指摘した。

その1カ月後、中国政府はこの地域での新規ダム建設を禁止し、違法なプロジェクトはそれを「正す」と表明。だが、何カ所のダムを閉鎖するかは、まだ明らかになっていない。

「統一基準がなく、いまだに、小規模発電所のどれを破壊し、どれを継続させるのか明確ではない」と、四川省の環境グループ「横断山脈研究会」の楊勇会長は言う。

政府は、小規模ダムによって多くの希少な魚の生息地や繁殖パターンが破壊されたと指摘するが、環境団体などは、町やエコシステムを丸ごと水没させた巨大ダムのほうが与えた被害は大きく、地震や地すべり、さらには気候変動リスクまで増大させたと主張する。

長さ48キロ程度の周公河では、自然保護区に加え、国土面積の4分の1を開発から守るために新たに設定された「生態系保護レッドライン」に抵触する位置にある小規模ダムを、当局が撤去している。

だがこの川には、中国国電集団や中国華電集団、国家電網など、中国有数の大企業が運営する大規模水力発電所10基が残されており、環境保護省は今年、この川の「過開発」について批判している。

こうした企業やその子会社は、いずれもコメントを避けた。

中央政府系の電力会社は、ずさんに計画された小規模ダムが自社の利益を損なっているとして、規制当局による取り締まりを求めていた。

前出の楊氏は、より大規模なダムによる送電網へのアクセスを容易にするために、小規模ダムが閉鎖されたのではないかと疑っている。

「こうした小規模な水力発電所は従来、送電網の合意があり、それらが合法であれば、接続できた」と楊氏は言う。「大規模な発電所が多すぎて、送電網に接続できないという事態は、公正ではない」

農民のジャンさんにとってみれば、大規模ダムはすでに、住民が何十年も頼りにしてきた周公河から生き物を搾り取ってしまった。「何万人もの人がここで生計を立ててきたが、まもなくそれも無理になるだろう」と、彼は言った。

(翻訳:山口香子、翻訳:下郡美紀)

David Stanway

[楽山(中国四川省) 31日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中