最新記事

中国

金持ち中国の代表チームは、なぜW杯に出られない?

2018年7月5日(木)17時30分
高口康太(ジャーナリスト)

大会会場で選手より目立つ中国の不動産企業WANDAの広告 Marko Djurica-REUTERS

<ロシアW杯の会場は中国企業の広告だらけだが......「サッカー大国」中国の現実>

アイスランドや日本といった「サッカー中進国」の健闘で盛り上がるロシアW杯だが、出場国以上にヒートアップしている国がある。中国だ。

中国は卓球やバドミントンの強豪国だが、観戦で人気があるのはサッカーとバスケットボール。特にサッカーは90年代からテレビで欧州サッカーが無料で見られたこともあり、目の肥えたファンが多い。

この人気に目を付けたのが中国企業で、アリババグループの動画配信サイト優酷(Youku)は16億元を投じてW杯のネット放映権を獲得。大会スポンサーでも、FIFAの汚職事件で欧米企業が撤退した穴を不動産の大連万達集団(WANDA)、家電のハイセンス、乳製品の蒙牛、スマートフォンのVivo、紳士服の帝牌、ハイテクのLUCI、電動バイクの雅迪の中国企業7社が埋めている。

また大会期間中には10万人の中国人観光客がロシアに乗り込む。中国ではザリガニとビールが観戦の定番で、今回ロシアに10万匹の冷凍ザリガニが輸出された。ユニフォームや国旗などのグッズの多くは中国製だ。

スポンサー、観客、グッズ、そしてザリガニ。中国だらけのロシアW杯で唯一欠けているのが、02年の日韓大会を最後に出場できずにいる中国代表だ。

中国サッカーそのものは低調ではない。プロリーグ「中国スーパーリーグ」のクラブは資金力を生かしてワールドクラスの選手を次々と獲得。観客動員も右肩上がりで、17年の平均観客動員は世界5位の2万3800人と、Jリーグの1万8800人を上回っている。アジア王者を決めるAFCチャンピオンズリーグでも13年と15年に広州恒大が優勝している。

国民のサッカー熱は高く、資金もある。国内リーグのレベルも上がったのに、なぜ中国代表はW杯に出場できないのか。

習近平の夢が実現する日

中国のスポーツ選手は、国家が育て報酬を支払うステートアマ制度によって育成されてきた。しかしこの前提は市場経済の拡大で覆され、国家のために尽くしても、現役引退すれば身分は保障されなくなった。体操界のエースが引退後に物乞いになるという衝撃的なニュースも報じられ、スポーツ選手になることを敬遠する動きが広がった。

加えてサッカーは多くの選手を育成する必要があるためコストがかかる、と地方政府がためらっている事情がある。彼らが優先するのは重量挙げのような費用対効果が高い個人種目だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中