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北朝鮮核実験場に消えた政治犯たち...金正恩「被ばく強制労働」を隠ぺいか
2016年3月に核開発施設を視察したとされる時の金正恩 KCNA-REUTERS
<北朝鮮の核施設では政治犯が防護服なしに強制労働させられていたという証言がある。今後の非核化検証の過程でそうした被ばく労働の実態が明かされる可能性も>
金正恩党委員長が核実験と大陸間弾道ミサイル実験の中止、さらには核実験場の廃棄を発表した。
金正恩氏の方針転換に対して、米韓をはじめとする周辺国は懐疑的な目を向けているが、ある程度は歓迎せざるをえないようだ。
実際に核実験場が廃棄されれば、非核化に向けた北朝鮮の本気度に対する信頼は高まることになるだろう。しかしそれとともに、深刻な「人権侵害」が隠ぺいされかねないのも事実だ。
500人死亡の地獄絵図
北朝鮮がこれまで行った6回の核実験のうち、4回は金正恩時代に入って行われた。2016年から2017年の2年間では3回も強行されている。核実験場の周辺地域は、放射能汚染が相当に進んでいることが予想される。
汚染は、核実験場付近の住民にも及んでいる可能性は以前から指摘されている。また、豊渓里近くには悪名高き「16号管理所」(化城政治犯収容所)が存在する。ここに収容された政治犯が、核施設で防護服なし、すなわち放射能に被ばくしながら強制労働させられているという証言すらある。
「若くて元気な政治犯たちがトラックに乗せられ、『大建設』という名目で核実験施設に連れて行かれた」
これは、収容所の警備兵出身で脱北者の安明哲(アン・ミョンチョル)氏の証言だ。
核実験場の性格上、作業は秘密裏に行わねばならず、一般住民は動員しづらい。政治犯なら情報は漏れず、隠ぺいしやすい。被ばくによる死者が出ると、遺体は放射性廃棄物扱いされ統制区域に埋められるという。
そもそも政治犯収容所では、拷問、公開処刑などありとあらゆる人権侵害が常態化している。北朝鮮当局にとって政治犯は「敵対勢力」であり、被ばくさせても何ら罪の意識を感じないようだ。
<参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態...「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も>
北朝鮮当局の人命軽視は政治犯に限った話ではない。過去には、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きた。しかし、北朝鮮当局は事故の存在そのものを隠ぺいし、詳細は一切明らかにされなかった。
<参考記事:【再現ルポ】北朝鮮の橋崩落事故、500人死亡の阿鼻叫喚...人民を死に追いやる「鶴の一声」>
金正恩氏は、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れなど、非核化検証を受け入れる意向を米国のトランプ政権に伝えたとされている。検証の過程で、地域住民の放射能汚染や被ばく労働、すなわち核開発の裏で行われていた人権侵害を明かす端緒が開かれるかもしれない。
もちろん、金正恩氏はなんとしてでも避けたいことだろう。そのためにあらかじめ核実験場を廃棄する姿勢を見せたのだろうか。しかし、核開発によって北朝鮮国民が多大なる犠牲を強いられた罪からは逃れられない。北朝鮮の核問題を解決するためには、安保上だけでなく人権問題の視点からアプローチすることも必要なことである。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。