最新記事

シリコンバレー

シリコンバレー成長信仰の危険なツケ

2018年4月24日(火)16時30分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

ウーバーの成長速度を、称賛するか批判するかは立場によって異なるだろう。既存のタクシー業界を脅かし、規制をかいくぐり、競合他社に圧勝して配車サービス市場を支配している。障害を乗り越えるためならスパイ行為や妨害工作もしてきた。自動運転技術に参入したのも、自動車市場全体を支配する好機とみたからだ。

3月にはウーバーの試験車両が、自動運転車としては世界で初めて歩行者を殺した。アリゾナ州の砂漠の暗い夜道で歩行者をはねたのだ。運転補助者は前を見ていなかった(報道によれば、人が運転していても避け難かった事故だったとされる)。

ライバル勢に比べて技術力が高いわけでもないのに、ウーバーは真っ先に自動運転車の路上走行試験を始めた。しかし事故後にアリゾナ州で許可を取り上げられ、更新期限を迎えたカリフォルニア州でも再申請しないことを決めた。「正しいかどうかより、成長を重視し過ぎた。競争ばかり考えたのは間違いだった」。3月末のニューヨーカー誌は、そんなコスロシャヒCEOの発言を報じていた。

そして電気自動車のテスラ。シリコンバレーで屈指の大胆かつ誇り高き起業家イーロン・マスクの会社だ。彼は多くの不可能と思われることを成し遂げてきた。だがテスラも戦略の見直しを迫られている。

価格3万5000ドルの「モデル3」で量産車市場に進出するはずだったが、量産技術の確立に手間取って、いまだに生産ペースが上がらない。品質にも問題が指摘され、生産計画は何度も修正されている。そしてついに、社債も格下げされた。

3月下旬には著名な業界アナリストがレポートを発表し、テスラは工場の完全自動化にこだわり過ぎて「墓穴を掘った」と評している。

テスラは3月末に、同月23日にカリフォルニア州マウンテンビューで中央分離帯に激突して炎上した「モデルX」がオートパイロットで走行していた事実を認めた。この事故では運転手が死亡している。

16年にもオートパイロットで走行中の「モデルS」がフロリダ州で死亡事故を起こしており、その技術の安全性には疑問が噴出している。まだ人間の監督なしで安全に走行できるレベルに達していないのに、テスラは危険な車を売って公衆を危険にさらしている。

それでもテスラは、自動運転車が救う命は奪う命よりも多いと弁明した。フェイスブックのボスワースが「人をつなぐ」使命の崇高さを強調し、ウーバーが雇用の増加や経済活性化の効果を強調したのと同じだ。

求められる政府の介入

この3社はいずれも「使命」を重視している。株主の利益よりも崇高な目的を掲げて活動していると自任している。彼らが世のため人のためになっていることは事実だろう。しかしボスワースのメモが示すとおり、こうした企業では成長と使命が不可分になりやすい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中