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幸福度ランキング「幸せな国」デンマークにあって我々にないもの
経済が成長して失業率が低下しても不幸なアメリカとの違いは何か labsas/iStock.
<世界幸福度ランキングで7年連続トップ3入りを果たした幸せの秘密──
たとえばデンマーク人の95%は「いざというときに頼れる人」がいる>
国連は先日、「世界幸福度報告書2018」を発表。156か国を対象に実施された調査の結果、またもやデンマークが最も幸福な国のトップ3入りを果たした。7年連続の快挙だ。一方でアメリカは18位と、2017年から4つ順位を下げた。
デンマークが世界で最も幸福な国のひとつであることは、幸福度(あるいは心理学者たちが言うところの「主観的幸福度」)に関するそのほかの数多くの調査でも示されている。
ものごとを「どう測るか」については、科学者たちが好んで研究や議論を行っている。だが幸福度をどう測るかについては、全体的な合意があるようだ。
調査の範囲や目的にもよるが、幸福度の測定にあたっては多くの場合、客観的な指標(犯罪や収入、市民の社会参加や健康に関するデータ)と主観的な方法(人々がどれぐらいの頻度で肯定的/否定的な感情を経験するかを尋ねるなど)が使われる。
デンマークの国民はなぜ、自分の人生をより前向きに評価しているのだろうか。デンマーク出身の心理学者として、この問題を検証してみた。
確かに、デンマークは政府が安定していて公務員の汚職が少ない。質の高い教育や医療へのアクセスもある。一方で税率は世界で最も高い水準にあるが、国民の大半は喜んでそれを払っている。税金が高ければ、それだけ社会も良くなり得ると信じているのだ。
だがおそらく最も重要なのは、デンマーク人が「ヒュッゲ(hygge)」と呼ばれる文化的な概念を大切にしているからだろう。
2017年6月にオックスフォード辞典にも追加されたこの「ヒュッゲ」という言葉は、質の高い社会的交流をあらわす言葉だ。名詞や形容詞、あるいは動詞としても(たとえば「自分自身をヒュッゲする」のように)使うことができるし、イベントや場所についても「ヒュッゲリー(hyggelige)(ヒュッゲっぽい)」という言い方が使われる。
カギは「親密な関係」や信頼を築くこと
ヒュッゲは「心地よい状態」と翻訳されることがあるが、それよりも「意図的な親密さ」という定義の方が合っている。安定した、調和のとれた共有経験がある時の状態だ。暖炉の前で友人とコーヒーを飲んでいる時や、夏に公園でピクニックをしている時などが、これにあたるかもしれない。
家族でボードゲームやごちそうを囲む夜も「ヒュッゲ」だし、友人たちと集まって、ほのかな灯りの中で美味しいものを食べながら気楽に楽しむのも「ヒュッゲ」だ。特定の場所を「ヒュッゲリー」と表現することもある(「君の新しい家はとてもヒュッゲリーだね」)し、夕食に招いてくれた人に「ヒュッゲリーだった(楽しい時間だったという意味)」と感謝を伝えることもある。
調査によれば、ヒュッゲはデンマーク人の幸福感に欠かせないものになっている。ヒュッゲはストレスを和らげ、また仲間意識を築く機会をつくる役割も果たす。デンマークのように個人主義が発達した国において、ヒュッゲは平等主義を促進し、信頼関係を強化するものになり得る。
デンマークの文化心理と文化に完全に組み込まれていると言える「ヒュッゲ」は、世界的な現象にもなりつつある。アマゾンでは今や「ヒュッゲ」に関する900以上の本が売られているし、インスタグラム上には「#hygge」のハッシュタグがついた投稿が300万件以上ある。グーグル・トレンドのデータを見ても、2016年10月以降、「ヒュッゲ」の検索が大幅に増えているのが分かる。
またデンマーク以外にも、「ヒュッゲ」と同じようなコンセプトをあらわす言葉がある国もある。ノルウェーは「コーセリ(koselig)」、スウェーデンは「ミューシグ(mysig)」、オランダは「ヘゼリッヒハイト(gezelligheid)」、そしてドイツは「ゲミュートリヒカイト(gemütlichkeit)」だ。
ヒュッゲを欠くアメリカ
デンマーク同様に個人主義を重んじるアメリカには、文化的に「ヒュッゲ」に真に相当するものはない。一般に収入は幸福度と関連があるとされるが、アメリカはGDP(国民総生産)が成長し、失業率も低下しているのに、幸福度は着実に下降線をたどっている。
理由として考えられるのは、所得格差が大きいこと。また個人間の信頼や、政府やメディアなどの各種機関に対する信頼が著しく損なわれていることも問題だ。最終的には、より高い可処分所得も、必要な時に頼れる人がいるという心地よさ(デンマーク人の95%が自分にはそういう人がいると考えている)にはかなわないのだ。
「ヒュッゲ」にとって重要なのは、自分以外の人との間に親しい関係や信頼を築くこと。
アメリカ人の生活にも、もう少しヒュッゲが必要なのかもしれない。
(翻訳:森美歩)
Marie Helweg-Larsen, Professor of Psychology, Dickinson College
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.