最新記事

中国

トランプ、中国に知財制裁──在米中国人留学生の現状から考察

2018年3月26日(月)12時52分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

1940年代の中国革命は毛沢東の強烈な指導力により農民を駆り立て、農民を中心として燃え上がらせていったが、今や、かつてのロシア革命のように、工場労働者が反旗を翻す可能性の方が高い。特に天下を取ってしまった今では、政府転覆を目指す革命を指導するのではなく、全くその逆で、転覆のわずかな兆しでも見つかれば、それを徹底的に叩き潰すのが習近平の役割だ。だから中国では軍事費よりも治安維持費の方が多い。

中国外交部報道官「お返しをしないのは、かえって非礼」

だからだろう。中国外交部の華春瑩報道官は、アメリカの対中経済制裁に対して「お返しをしなければ失礼にあたる」として、中国もアメリカからの輸入品に高い関税を課す報復措置を取るだろうと、一歩も譲らなかった。きっと、中国人民の不満のエネルギーが顕在化するのを防ぐ目的もあったにちがいない。だから日中戦争を連想させる「侵略」という文字をあえて使うことによって、報復関税をする正当性を強調したものと思う。

実は、この「お返しをしなければ非礼だ」という翻訳に相当する元の中国語は「来而不往非礼也」(来たりて往かざるは非礼なり)で、儒教の経典の一つである『礼記』に出てくる言葉だ。この言葉を発するときに彼女は不敵とも言える笑みを浮かべた。それは「也」という文字を含んだ古い経典を引くことへの照れくささがあった側面もあったろうが、「やり返してやる」という中国政府の強い決意を示すことによって国内の不満分子の不安を抑え込む思惑があったものと解釈できる。

中国の中央テレビ局CCTVもネットも新聞も、このたびのトランプ大統領による対中経済制裁を激しく非難しており、「貿易戦争に勝者はいない」「結局はアメリカ自身に跳ね返って来る」と語気が荒い。

また「中国はいかなる挑戦にも対応する自信がある」「保護主義に基づいた制裁は米中両国のみならず、全世界の利益を損ねる」と、一日に何度も報道している。アメリカの専門家にも「アマゾンやウォルマートは中国からの輸入に依存しているのに、高関税をかけたらアメリカでの価格高騰を招き、トランプ支持者にさえ損失を与える結果になる」と解説させている。

知的財産権侵害の土壌――圧倒的多数を占める在米中国人留学生

しかし、中国がどんなに怒りを露わにしたとしても、少なくとも中国がアメリカの知的財産権を侵害していることを否定することはできないだろう。

アメリカには世界各国から118万人の留学生が集まっているが、そのうちの35.3万人が中国人で、全体の約30%を占める。出身国ランキングで常に1位の座を譲ったことがない。2位はインドだが、19.4万人。中国には遥かに及ばない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

〔ロイターネクスト〕気候とエネルギー、なお長期投資

ワールド

ミャンマーのアヘン栽培、過去10年で最大 世界最大

ビジネス

国際会計基準審議会、銀行リスク評価の新モデル巡り協

ワールド

子どもの死亡数、今年増加へ 援助削減が影響=ゲイツ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中