最新記事

タイ

日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

2018年3月9日(金)18時00分
パウィン・チャチャワーンポンパン(京都大学東南アジア研究所准教授)

写真の台湾のような新幹線方式の高速鉄道がタイに走るのはいつ? Maurice Tsai-Bloomberg/GETTY IMAGES

<中国に抵抗するため日本は熱心に推進していたが、軍事政権下のタイの政治状況を嫌い始めた>

日本にとって、タイへの影響力を維持することは、中国に対抗する上での重要課題だったはず。ところが先頃、高速鉄道建設計画で日本とタイの話し合いがまとまらなかったというニュースが流れた。

このニュースはタイでは大きく報じられており、計画の先行きを危ぶむ声も上がっている(タイ政府は計画中止を否定)。これにより、今後の両国関係に思わぬ波紋が生じる可能性もある。しかしそもそも、なぜこのような事態に至ったのか。

日本とタイはかなり前から、タイの首都バンコクと北部のチェンマイを結ぶ新幹線方式の高速鉄道建設に日本が投資する計画を協議してきた。日本側には、タイへの影響力を強めつつある中国に対抗するという戦略上の狙いがあると言われていた(タイは別路線の高速鉄道建設計画を中国との間で進めている)。

しかし、日本は2月7日の協議で、両国の合弁事業という形を望むタイの要求を拒否したとされている。代わりに、費用は全てタイの投資で賄い、日本が低利融資を行うという案を示したという。

日本がこの計画への投資を拒むのには理由がある。タイ軍事政権のプラユット暫定首相は、主に建設費用を抑える狙いで最高時速を300キロから180~200キロまで引き下げる方針を示していた。スピードを下げれば、「世界でも屈指の高速鉄道」という新幹線のイメージに傷が付きかねないと、日本は恐れたのかもしれない(後に、タイ側は最高時速300キロを維持する意向を明らかにした)。

日本が及び腰になっているもう1つの理由は、タイの内政面の問題だ。14年のクーデターで政権を掌握した軍事政権は、民政移管に向けた総選挙を先送りし続けてきた。同政権が今年に入ってまたしても選挙延期を決めたことで、日本を含む外国投資家の間では政情不安への懸念が高まっている。

実際、民主活動家は選挙の延期に激しく抗議しており、軍事政権が強引にそれを抑え込もうとする結果、タイの人権状況も悪化している。この状況でタイ政府と大型の商談をまとめれば、長い目で見た日本の利益に悪影響が及びかねないと、日本政府が考えても不思議はない。

タイ以外の投資先も開拓

しかも、汚職摘発に消極的なことが原因でプラユットの支持率は大幅に落ち込んでいる。若い兵士たちに対し、軍事政権へのクーデターを呼び掛ける有名評論家まで現れている。この点も、日本が現政権関連のプロジェクトへの投資に気が進まない理由の1つだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

国家石油備蓄の放出、政府が鹿児島志布志市の基地に準

ワールド

イラン大統領、自身の発言を「敵が誤解」=国営テレビ

ワールド

王外相、米中対話の重要性強調 イラン情勢巡り軍事行

ワールド

トランプ氏、女子学校攻撃は「イランの仕業」 証拠は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 7
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 8
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中