プーチン「無敵」の核兵器は恐れるに足らず
最後にプーチンは、飛行中の爆撃機から発射でき、現行のミサイルの半分の時間で標的に到達できる超音速ミサイルにも言及した。アメリカと中国も同じタイプのミサイルを試作している。しかしそれはジェット戦闘機や軍艦の攻撃範囲外にある標的を迅速に攻撃するための「通常兵器」としてだ。
もしロシアが本当に超音速ICBMを開発し(まだそこには至っていないが)、数十発を配備したら、それは新しい種類の戦略的脅威となる。米軍が反撃する前に、早期警戒レーダーシステムや、おそらくは幾つかの米軍の指揮命令拠点を破壊し、アメリカはさらに大規模な攻撃に対して無防備になってしまう。
しかしプーチンにその意図はなさそうだ。他の新型ミサイルの場合と同じく、プーチンはアメリカの防衛システムを「混乱させる」兵器として宣伝している。
プーチンのミサイル防衛への執着そのものが、やや混乱している。アメリカは現在も、そして国防総省の最も野心的な計画でも、数千発の核弾頭をアメリカに向けて発射できるロシアの攻撃力に抵抗するだけのミサイル防衛力を持っていない。
アメリカが先制攻撃(プーチンはそれがあり得ることだと想像している)を仕掛けた後でも、ロシアはまだ数百発の核弾頭を持っているし、アメリカはそのほとんどを撃ち落とすことができない。はっきりしているのは、アメリカのミサイル防衛システムが、北朝鮮のような小規模な核保有国や、おそらく今後現実的になるテロ組織などからの小規模な攻撃しか想定していないことだ。
米ロ双方の被害妄想
プーチンの演説は、トランプが2月に発表した核戦略見直し(NPR)への回答、と言える。NPRは2種類の核兵器 ── 潜水艦から発射できる新型の核巡航ミサイルと、潜水艦発射型弾道ミサイル「トライデント」用の小型の核弾頭──の開発を進めると明記。バラク・オバマ前大統領が承認した、老朽化する地上配備型ICBMや航続距離が長い戦略爆撃機の更新計画も続行する。さらに核攻撃だけでなく非核攻撃への報復にも核兵器を使う可能性があると明示し、核戦争の危険を増大させるとして多くの懸念を呼んだ。
NPRが新兵器開発の方針を打ち出し、核軍縮を目指したオバマ前政権の戦略を転換させた背景には、核戦略でアメリカより優位に立とうとするロシアへの対抗意識がある。それをロシア打倒を目論むアメリカの飽くなき野望だ、とみなしたプーチンは、新型兵器と新戦略を惜しげもなく披露した。
これらすべては冷戦の再来を意味するのか。一見するとそうだが、当時と今では状況がかなり異なる。冷戦時代、世界は資本主義のアメリカが率いる西側と共産主義の旧ソ連が率いる東側、という2つの勢力に分断されていた。ソ連軍は世界中で影響力を持ち、ソ連のイデオロギーはアメリカが独裁者の後ろ盾をしていた第三世界の反政府勢力の間で特に絶大な支持を集めた。米ソを支持する勢力の間で代理戦争も起きた。小規模な紛争に米ソがあえて首を突っ込み、武器の売却や露骨な軍事介入を行った結果、しばしば代理戦争へと発展したのだ。