震災7年、福島第1原発の凍土壁に疑問符 増え続ける「処理水」に手立てなく
3月8日、福島第1原発の汚染水対策の「切り札」として、345億円の国費を投じて作られた凍土壁。東京電力のデータによれば、当初の高い期待感とは裏腹に、想定していたほどの効果は得られていない。写真は福島第一原発で凍土壁の建築を行う作業員達。(2018年 ロイター)
福島第1原発の汚染水対策の「切り札」として、345億円の国費を投じて作られた凍土壁。東京電力<9501.T>のデータによれば、当初の高い期待感とは裏腹に、想定していたほどの効果は得られていない。
汚染水から放射性物質を取り除いた「処理水」の扱いも決まらず、不透明な部分が残されたまま、今月11日に東日本大震災の発生から丸7年を迎える。
凍土壁は、建屋の周囲に約1500本の凍結管を差し込んでマイナス30度の冷却液を流し、土壌を凍らせて壁を作る。全長は1.5キロ、壁の深さは30メートル。流れてくる地下水をせき止め、汚染水の増加を抑制する目的で設置された。
凍土壁の計画が打ち出されたのは、2013年のことだ。同年11月、東電と鹿島<1812.T>がまとめた設計方針によると、凍土壁によって「外部からの地下水流入がほとんどなくなる」とされた。
だが、東電のデータに基づいてロイターが分析したところ、昨年8月に凍土壁が完全凍結して以降も、1日平均141トンの水が流れ込んでいる。これは、それ以前の9カ月の平均値である1日132トンを上回る数値だ。凍土壁は、壁というより、金属のポールを組み合わせた「フェンス」に近いと言える。
国内外の専門家で構成する東電の第三者委員会の委員長であるデール・クライン氏(米原子力規制委員会元委員長)は「凍土壁が過大評価されていた側面がある」と指摘。「福島の現場は水文学(すいもんがく)的に極めて複雑で、特に降水量の多い期間は、実際の水の流れを予測することは難しい」と話す。
クライン氏が言及した水文学(hydrology)は、地上に降った雨や雪などが、地中に浸み込んだり河川に流れたりながら海に集まり、蒸発して大気に戻るまでを地球規模で捉える地球物理学の一部門。地中における水の流れは、把握や予測が難しいとされている。
●台風
地下水の流入量は、雨に左右されることが多い。東電のデータによると、雨が少ない1月は1日平均83トン。しかし、昨年10月20日─26日の期間では、台風の影響があり、同866トンもの地下水が流れ込む結果となった。
東電は、凍土壁も含めた複数の対策の結果、15年12月からの3カ月間と17年12月からの同期間を比較した場合、1日約490トンだった汚染水発生量が約110トンまで減少したと発表。凍土壁による汚染水発生量の抑制効果は、1日約95トンと結論付けた。
「非常に有効に機能していると評価している」──。増田尚宏・福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者は、こう指摘する。凍土壁が完成したことで「水位を管理できるシステムが構築できた」との見方を示した。