ロシアの「賢帝」プーチンに死角あり
プーチンは強い指導者を演じ続ける(写真はマルチボード広告に掲載された大統領選広告のプーチン) Sergei Karpukhin-REUTERS
<皇帝のように振る舞い「強いロシア」を力説するのは、外圧と草の根パワーに対する不安の裏返し>
マイケル・モレル元CIA副長官は先日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について次のような問いを投げ掛けた。プーチンはロシアの歴代指導者たちの産物なのか。それとも全く新しいものと理解すべきか。
いい疑問だ。プーチンの動機や行動はどこまで本人の人格で説明できるのか。ロシアの皇帝たち、ソ連の指導者たちの文化的・歴史的パターンの影響はどのくらいあるのか。
ロシアの指導者には基本的な型があるという考え方は目新しいものではない。冷戦時代、モスクワに赴任する新任のアメリカ大使はまず「冷戦政策の父」として知られるジョージ・F・ケナンを訪ねて助言を求めた。
ケナンはそのたびに、大学図書館で18~19世紀のロシア史の本を調べるよう勧めたという。過去の書物からも現代ソ連の指導者と政治について学ぶことは多いというのが彼の持論だった。時代は変わっても、ロシアの指導者は変わらない、と。
とはいえ、ソ連という国家建設は新しい試みだった。彼らはロシアの歴史に決別し、イデオロギーに基づく社会をつくろうとした。KGBは国家権力の要であり、新たな「現代人」創出の最前線だった。こうした未来派ともいうべき新知識人は国家主義的感情を捨て去った。彼らはロシア人ではなくソ連市民だった。
新たな「ソ連人」をつくるという夢を受け入れたプーチンは、大統領就任当初は過去のロシアの独裁者と違って見えた。ソ連崩壊後の初代大統領ボリス・エリツィンの後を引き継いだ当初は、ロシアの親欧米化・民主化を模索。05年にはソ連崩壊は20世紀「最大の地政学的惨事」だったとまで発言している。
だが権力基盤が固まるにつれ、プーチンは次第に政治力と経済力を自らに集中させ、ロシアの文化と歴史の象徴を利用して支持を拡大していった。ソ連の教訓への言及を避け、ロシアのナショナリズムへの共感を力説するようになった。ロシアはいつの時代も外国の脅威にさらされ、力ある指導者だけが安定したロシア国家を守ることができる、というのが彼の考えだった。
真の民主主義は脅威に
もちろん、そうしたロシア的な見方は真実も含んでいる。ロシアには自然の国境がなく、周辺の強国から侵略されてきた。ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官に言わせれば、91年に強かったはずの祖国の崩壊を体験しているプーチンは、「自分がロシアの歴史と考えるものに強いつながり、精神的なつながりを感じている人物」なのだ。
この意味で、過去17年間にわたるプーチンの政策と行動はロシアにおける独裁と父権主義の歴史的パターンに沿っているように思える。プーチンは「賢帝」を演じ、ロシアの強さを強調してきた。
ロシアは近隣国の影響力拡大や欧米への接近を望んでいない。バルカン半島での紛争やNATO拡大、ジョージア(グルジア)、ウクライナ、リビア、エジプトでの騒乱などの危機が起きるたび、プーチンの中でアメリカへの不満が鬱積していった。