最新記事

自然保護

タツノオトシゴの丸焼きがタイで炎上、一転保護へ

2018年1月26日(金)12時52分
大塚智彦(PanAsiaNews)

北京の屋台でも見られたタツノオトシゴ(画面左)、中央は油で揚げたサソリ(2014年) Benoit Tessier-REUTERS

<誰かが丸焼きの哀れな姿をアップしてくれたおかげで世界中から批判が殺到。あの独特の形状が種を救った?>

タイ漁業省は1月25日、タツノオトシゴの「商業目的の捕獲と販売」などを禁じる法律を1カ月以内をめどに制定する考えを明らかにした。タツノオトシゴの丸焼きがビーチリゾート、パタヤの水上マーケットで販売されている写真がネットに掲載され、国際的な批判が殺到したため。

タツノオトシゴは英語でシーホース(海の馬)と称される魚の一種で、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)に挙げられ、ワシントン条約では付属書の中で「輸出入には許可証が必要」な生物に指定されている。

一般に食用には適さないが、中国では漢方薬としての需要があり、タイでは珍しさもあって丸焼きが販売されている。

1月22日に、ある水上マーケットの一角で串刺しにされた丸焼きのタツノオトシゴが1本150バーツ(約500円)で売られているのを見た一般人が写真をフェイスブックに投稿したところ、アクセスが殺到した。それが「合法か違法か」の議論に発展し、タイ政府も放置できなくなった。これほど注目を集めたのは、丸焼きがただの魚ではなく、独特の形状で愛されるタツノオトシゴだったせいもあるだろう。

日本では特に捕獲は禁止されておらず、観賞用として飼育されることがあるタツノオトシゴだが、タイでは、中国の漢方薬の原料としての需要が高く、輸出品として価値があることから「種の絶滅に影響を与えない範囲での輸出」として実質上黙認されてきたようだ。

数日で店頭から消えた

ネットでの批判を受けて、丸焼きを販売していたパタヤの店舗は販売を禁止されるとともに、営業許可が取り消され、閉店に追い込まれたといい、騒ぎからたった数日なのに、もはやパタヤ周辺でタツノオトシゴの丸焼きは一切販売されていないという。

タイではこのほかにカブトガニも食用として食べられている。カブトガニは日本では環境省のレッドリスト(絶滅危惧1類)に指定され、一部繁殖地では天然記念物とされている。
タイでは丸ごと茹でたり焼いたりして取り出した卵を食用として食べる習慣があり、パタヤやホアヒン、時にはバンコク市内でも見かけることがある。卵部分ぐらいしか食べることができないため価格は約200バーツ(約700円)と決して高くはない。

同じ東南アジアのインドネシアやマレーシアではワシントン条約で保護の対象となっているアオウミガメの肉や卵をいまだに食用とする習慣が残るなど、保護対象の海洋生物が普通に食べられていることも少なくない。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国、25年の鉱工業生産を5.9%増と予想=国営テ

ワールド

ゼレンスキー氏、年内の進展に期待 トランプ氏との会

ワールド

オデーサなどで外国船舶損傷、ロシアが無人機攻撃=ウ

ワールド

プーチン氏、領土交換の可能性示唆 ドンバス全域の確
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中