最新記事

睡眠

「嫌な気持ちは寝て忘れちゃえ」は逆効果?

2017年11月20日(月)18時40分
松丸さとみ

感情的にネガティブな記憶は睡眠で忘れにくくなる gruizza-iStock

睡眠後にもよく覚えているのは不快なもの

嫌なことがあったら、寝て忘れちゃえ。そんな風に思ってベッドに入ったことはないだろうか。実はそれ、逆効果らしいことが、先ごろ米ワシントンで開催されたニューロサイエンス2017で発表された。

ボストンの医療機関、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの神経科学者ロイ・コックス博士が率いるチームが調査を行なった。

調査は57人のボランティアを対象に、まず、中立な写真(例えば猫など)と不快な写真(火事になっている家など)を複数枚見せた。この時、中立な写真と不快な写真は、それぞれ左右どちらかの視界だけで見えるようにした。これは、右目の情報は左脳で、左目の情報は右脳で処理をすることから、脳のどの部分を使ってそれぞれの写真に反応しているかを調査するためだ。ボランティアの人たちの脳の動きは、脳波測定で記録された。

ボランティアの半数は、写真を見た後に就寝して12時間後に記憶テストを行なった。もう半数の人たちは、写真を見た後はずっと起きたまま、12時間後に記憶テストを受けた。今回は左右両方の目で見えるように不快な写真と中立な写真を見せ、12時間前に見た時にその写真が左右のどちらにあったかを聞いた。すると、ずっと起きていたグループは、不快な写真と中立な写真の場所を同じ程度に忘れていた。しかし、睡眠を取ったグループは、中立な写真の場所は起きていたグループと同じ程度に忘れていたが、不快な写真については、中立な写真に比べよく覚えていたという。

心理学専門誌サイコロジー・トゥデイによると、コックス博士は睡眠が全ての記憶を平等に扱うわけではないらしく、「特に不快なものを忘れにくくするようだ」と説明した。それは、例えば美味しそうな果実だと思ったのに食べたら体調を崩した...というようなことがあった場合に、その果実の見た目や場所を覚えておく方が、同じようなことが起こらないよう身を守るために必要だからではないか、と調査チームは推測している。

睡眠の暗部

また、まだ分析中ではあるものの、否定的な写真を見せた時に強い反応を示した脳の場所と、睡眠中に脳がもっとも活発に活動していた場所とが呼応するのではないかと調査チームは仮説を立てているという。

米誌フォーブスによると、起きている時に経験した記憶をあとで整理するというプロセスにおいて、睡眠が果たす基本的かつ複雑な役割の概念について、コックス博士は今回の調査が大幅に前進させると考えているという。

同誌はまた、2016年に発表された、「睡眠で忘れにくくなるのは、感情的にポジティブな記憶よりもネガティブな記憶」とした研究とともに、今回の調査が睡眠の「影の側面」を説明するのに役立つだろう、と述べている。PTSDや不安障害、うつなどの症状と睡眠障害はリンクしているためだ。

嫌なことがあったら忘れるためにすぐ寝ちゃえ...は逆効果のようなので、気分転換は睡眠以外にした方が良さそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中