最新記事

中東

サウジ汚職摘発の真相 「王室分裂」はムハンマド皇太子の政敵排除

2017年11月18日(土)11時38分

「MbS(ムハンマド皇太子)は、誰でも標的にできる汚職撲滅というムチを振るった」。1979年から2001年まで情報機関トップを務めたトルキー・アル・ファイサル王子の元顧問ジャマル・カショーギ氏はそう語る。「われわれは、王子たちが汚職の容疑で取り調べを受ける姿を初めて目撃している」

だが、ムハンマド皇太子は粛清の対象を注意深く選別している、と米国在住のカショーギ氏は指摘する。

「MbSは自国を愛するナショナリストであり、自国を最強にしたいと考えているが、彼の問題は、自分1人で統治したいと考えている点だ」とカショーギ氏は言う。

事実上の支配者

ムハンマド皇太子は、サルマン国王が即位した2015年、国防大臣に任命された。サルマン国王は6月、治安機関を長年率いてきたおいのムハンマド・ビン・ナエフ氏に代わり、息子のムハンマド・ビン・サルマン氏を皇太子に昇格させた。王族はこれを黙認し、皇太子は9月までに自身と対立する宗教家や知識人らを検挙している。

今回の拘束は、ムハンマド皇太子による改革推進を狙ったものだ。この改革は、1930年代に現サウジアラビア王国を樹立したアブドルアジーズ国王の治世以来最大のものになると約束されている。

サウジ国家は、王族のサウード家と同国発祥の厳格なイスラム主義を統制するワッハーブ派聖職者との長年の共存を基盤としてきた。

王家はサウジアラビア国民に快適な生活と豊富な石油収入の分け前を約束してきた。それと引き換えに、臣民たちは政治的に服従し、国家の厳格な宗教的、社会的な規範に従うことを約束した。

「イブン・サウード」の名でも知られるアブドルアジーズ初代サウジ国王は1953年に死去。それ以降も国王がこの国統治しており、その下には複数の王子たちがいるが、他の王子たちの希望に逆らってまで自らの意志を押し通すほどの力を持った王子はこれまでいなかった。

意志決定はもっぱらコンセンサス重視で行われた。こうした仕組みによって社会や政治面での改革は遅々として進まなかった一方で、王国の安定は保たれてきた。

だが、自身を新たな「イブン・サウード」と位置付けようとする動きのなかで、ムハンマド皇太子は、人口増大と石油価格低迷という重圧で揺らいでいたこの国の統治構造を破壊しつつある。

コンセンサスによる意志決定は、批判派のいう「独裁」に取って代わられた。一部の王子たちはこれに反対しているが、表立って批判を口にするリスクを冒そうとはしない。

過去数十年にわたって、サウジの歴代国王は、1─2人の兄弟か息子、おいを側近として意見を申し入れさせ、共同して統治にあたっていた。だが、ムハンマド皇太子は、兄弟や近親者を要職に任命せず、代わりにアドバイザーたちに頼っている。彼らは主に自国出身者だが、なかには米国や英国で教育を受けた者もいる。

最終的な決定権を握っているのは、依然として82歳のサルマン国王だ。しかし、王国の軍事や治安、経済、外交、社会問題への対応はすでに太子に委ねられている。宮廷関係者は否定するが、ここ数カ月、国王が近くムハンマド皇太子に譲位するのではないかという憶測が流れている。

こうなると、皇太子の年齢も注目に値する。過去3代の国王が即位した年齢はそれぞれ61歳、80歳、79歳だった。ムハンマド皇太子は32歳で、実質的に国王同然の権力を手に入れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 9
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中