最新記事

宇宙

太陽風の荷電粒子を受け推進する「電気帆」:50機で小惑星群を探査する構想も

2017年11月2日(木)18時30分
高森郁哉

太陽風の荷電粒子を利用する推進システム「エレクトリックセイル(電気帆)」 Credit: NASA

宇宙空間で推進力を得る次世代の技術として、太陽風の荷電粒子を利用する「エレクトリックセイル(電気帆)」への関心が次第に高まっている。すでに実証済みの「太陽帆」とは異なる技術で、いまだ宇宙での実績はないが、米航空宇宙局(NASA)のプロジェクトにも採用されるなど、実現する日が近づきつつあるようだ。

エレクトリックセイルの仕組み

太陽は荷電粒子(主に電子と陽子)を絶えず放出しており、この荷電粒子の連続的な流れが太陽風と呼ばれる。エレクトリックセイルは、回転する多数の長いワイヤーを帯電させ、太陽風に対して正の電位に保つことで、太陽風の陽子と反発して推進力が生み出される。

太陽風の圧力は極めて小さいため、推進に必要な電位を得るにはワイヤーを長く伸ばす必要がある。そこで、毛髪より細い25ミクロン(毛髪は約50〜100ミクロン)のワイヤーを20kmも伸ばすシステムが構想されている。

従来の太陽帆との違い

いっぽうの太陽帆は、太陽が発する光子(光を構成する素粒子)を薄膜に反射させ、光の入射方向と逆向きの力を発生させて推進力を得る。薄膜に生じる力は帆の面積と光圧力に比例するため、十分な推進力を得るためには薄膜の面積を大きくする必要がある。

また、光圧力は光源からの距離の二乗に反比例するため、太陽からの距離が離れるほど、加速が弱まっていく。これに対し、太陽風の届く範囲(太陽圏)の中では荷電粒子の量が一定しているため、エレクトリックセイルは一定の加速を維持できるメリットがある。

計算上は、1000kgの探査機が100本のワイヤーを備えていれば、毎秒1ミリメートル毎秒毎秒の加速度を得られる。これは、最初の1秒間で1ミリ進み(秒速1ミリ)、次の1秒間で2ミリ進む(秒速2ミリ)という加速の度合いで、1年後には秒速30キロメートルに達するという。

NASAのプロジェクトにも採用

エレクトリックセイルの第一人者は、フィンランドの宇宙科学者ペッカ・ヤンフネン氏だ。同氏は、NASAが2015年に発表した研究プロジェクト「太陽圏境界面・静電気高速移動システム(Heliopause Electrostatic Rapid Transit System:HERTS)」に参画。HERTSでは、エレクトリックセイルで推進するシステムで、ヘリオポーズと呼ばれる太陽圏境界面の120〜150AU(天文単位)の距離まで、15年以内に到達することを目指す。ヤンフネン氏の研究成果は、早ければ1〜2年以内に打ち上げられるNASAの外惑星ミッションに反映される可能性があるという。

また、ヤンフネン氏は今年9月にラトビアで開催された欧州惑星会議で、エレクトリックセイルで推進する超小型探査機50機で最大300個もの小惑星を探査する構想を発表した。個々の探査機には4センチの望遠鏡が搭載され、赤外線分光計によって小惑星に含まれる鉱物資源などを調査できるという。ミッション全体の推計費用は約6000万ユーロ(約80億円)で、小惑星1個あたりの探査費用を抑えられるメリットがあるとしている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア、米との安全保障協議の用意 最後の米ロ核軍縮

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック続落、AI懸念でハ

ビジネス

米クアルコム、1─3月期見通しが予想下回る メモリ

ワールド

米、重要鉱物で「貿易圏」構築提案 日米欧は戦略的連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中