北極圏の生態系を壊す原油採掘再開の悪夢
北極圏の環境が突き付ける難題の数々を、石油会社は果たして理解しているのか。例えばメキシコ湾での流出事故発生後のBPの対応計画では、事故の影響を受ける恐れのある野生動物にアシカ、ラッコ、セイウチが含まれていた。どれもメキシコ湾にはいない動物ばかりだ。
英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルは15年まで断続的に北極圏で油田探査を行っていたが、その間、掘削リグの火災や掘削リグの座礁事故など大惨事につながりかねない事故を立て続けに起こしている。
私は自然保護活動家だが、現実主義者でもある。地球温暖化の影響で北極の氷の融解が進み、35兆ドル規模の原油・天然ガス資源の宝庫が姿を現している。資源開発の誘惑も抗し難いものになるだろう――子供たちが受け継ぐ地球にどんな影響を及ぼすことになろうとも、だ。
実際的なルールの確立を
しかし最低限、北極圏での採掘を望む企業に対して良識的な規制を設けることはできる。採掘を許可する条件として次の3つを義務付けるのだ。その環境特有のあらゆるリスクを完全に評価したことを提示すること。除去作業が必要になった場合は全面的な最終責任を負うと約束すること(必要なリソースがあることも示す)。そして北極圏で速やかに(数週間や数カ月ではなく数日単位で)効果を上げられる対応・封じ込め能力があると証明することだ。
北極の生態系の調査に大規模な資金を投じる必要もある。管理し保護するためには、まず理解しなければならない。悲しいことに、私たちは北極海の海底よりも火星の表面についてのほうが詳しいくらいだ。それでも、特に影響を受けやすい海域に指定保護区を設けて生態系の回復力を高めることはできる。
アメリカは北極での掘削権を手に入れるべきだ。北極圏で活動しているのはアメリカだけではない。中国とロシアも北極の原油採掘に向けて動いている。安全でない慣行が普及しないうちに、今すぐ最良のやり方を確立しなければならない。
エクソン・バルディーズ号の原油流出事故から30年近くが過ぎた今も、プリンス・ウィリアム湾沿岸の一部では砂浜を少し掘れば流出した原油が現れる。北極圏での人間の活動の影響が何世代も尾を引くことをまざまざと見せつける。
人類の活動によって北極を覆う無垢で真っ白な氷が解け、代わりに有害で真っ黒な原油が広がっていく――そんな光景が脳裏に浮かんで離れない。シンプルで実際的なルールを設けよう。悪夢が現実になるのを断固阻止するために。
(筆者はメキシコ湾原油流出事故の原因究明・提言に携わった流出事故対応のエキスパート)
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[2017年9月26日号掲載]