最新記事

中国党大会

「新時代の中国」は世界の人権を踏みにじる

2017年10月19日(木)16時30分
トーマス・ケロッグ

習近平が強調した「新時代の中国」は世界を支配する中国になりかねない Aly Song-REUTERS

<中国が「友好国」を使って国連の人権監視機関を骨抜きにしている現状を見れば、将来にも悲観的にならざるをえない>

10月18日に開幕した第19回共産党大会で習近平(シー・チンピン)総書記(国家主席)は「新時代の中国」を強調し、2050年までに「世界の先頭に立つ国家になる」と宣言した。中国をトップに頂く世界秩序はどんなものか、それを覗かせてくれる報告書がある。

米国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは先月、中国に関する96ページの報告書を発表した。自国と友好国が人権問題で批判されないよう、中国当局が巧妙に国連人権機関の活動を妨害してきた実態を明らかにした内容だ。

「国際的な人権擁護活動が受けた痛手――国連人権メカニズムへの中国の干渉」と題した報告書は鋭い警鐘を鳴らしているが、メディアはろくに取り上げていない。

【参考記事】北朝鮮をかばい続けてきた中国が今、態度を急変させた理由

習近平「1強」と言われる今日の体制を築く過程で、習は言論統制を強化し、人権状況は悪化の一途をたどっているが、中国当局は様々なツールを駆使して批判を封じ込めてきた。なかでも悪質なのは、中国人活動家が国連職員に協力したり接触したりできなくする措置だ。国連の会合に出席させないために活動家の身柄を拘束した事例が複数確認されており、たとえ出席できても帰国後の処罰は免れられない。そのため多くの活動家が国連や国際NGOとの協力に及び腰になり、中国国内での弾圧状況を彼らから直接を聞くことが困難になっているという。

変容する国連人権理事会

さらに中国は自国に批判的な国際NGOが国連の会合にオブザーバーとして参加できないよう圧力をかけたり、参加資格の認定手続きを妨害している。NGO設立の背景などについて無意味な質問をいくつも送り付け、認定をずるずる先延ばしにするやり方だ。ジャーナリストの保護と言論弾圧の監視活動を行う「ジャーナリスト保護委員会」(本部ニューヨーク)は中国などの妨害に遭い、申請から認定まで4年も待たされたという。

【参考記事】石平「中国『崩壊』とは言ってない。予言したこともない」

中国はまた、国連人権理事会など国連の主要な人権機関の議論に影響を与えようとしている。人権理事会で中国の人権状況が議題に上がると、中国は毎回、友好国に自国の弁護をさせる。中国に協力すれば経済的な見返りが得られるから、友好国は労を惜しまない。

2013年の人権理事会では反体制派に対する中国当局の弾圧をキューバの代表が抜け抜けと賞賛。「犯罪的な活動を取り締まり、中国の主権を守る、称賛されるべき措置」だとした。中国は「人権分野での業績で賞賛されるキューバ」に賛辞を返した。国連の人権機関は政治的に中立な立場で、事実に基づき各国の人権状況を評価する役割を担うが、中国が友好国と手を組んで煙幕を張るため、本来の役割を果たしにくくなっている。

【参考記事】自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中