最新記事

対北朝鮮制裁

北朝鮮に制裁強化の中国を悩ますロシアリスク

2017年10月5日(木)18時00分
ジョエル・ウスナウ(米国防大学中国軍事研究センター研究員)

第1に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は北朝鮮との経済関係をソ連時代の「最盛期」に戻そうとしているのではないかと、中国の専門家はずっと疑念を抱いてきた。プーチンは北朝鮮をロシアの武器やエネルギーの格好の輸出先と見なし、北朝鮮の安価な労働力を極東地域の産業再生に利用していると、03年の時点で中国現代国際関係研究院のロシア専門家季志業(チー・チーチエ)(現在は同院長)は主張していた。

15年には、同研究院のアナリストがロシアと北朝鮮の経済関係が「前例にない」発展を遂げていると指摘。両国が20年までに貿易規模を10倍に拡大するとの合意を結んだこと、ロシアが穀物輸出という形で北朝鮮に融資を行っていることなどを例に挙げた。

それぞれの読み切れない思惑

第2に、中ロ間に戦略的パートナーシップが芽生え、北朝鮮をめぐる多くの問題で手を組む現状にもかかわらず、中国の専門家はロシアの地政学的目標への懸念を拭い去れない。

中国社会科学院の研究員によれば、アジアに軸足を移すロシア版「リバランス(再均衡)政策」の一環として、プーチン政権はアジアでの影響力を拡大する目的で北朝鮮との関係を強化している。この動きは、対中関係の悪化を受けて新たな味方を探す北朝鮮にとっても都合がいい。

だが、中国国内には正反対の意見もある。中国共産党中央党校教授で朝鮮半島研究専門家の張璉瑰(チャン・リエンコイ)らに言わせれば、北朝鮮の狙いは自国をめぐって大国同士を競わせること。いずれの国にも過度に依存する気はないという。ロシアの思惑をよそに北朝鮮は両面作戦を取り、いずれは中国へ回帰するかもしれない。

共産党機関紙人民日報系のタブロイド紙である環球時報は先頃、ロシアと北朝鮮の関係について懸念を捨てるべき2つの理由を挙げた。それによると、中国の制裁強化で北朝鮮が被る損失を埋め合わせるだけの資金力がロシアにはない。加えて、ロシアは自ら賛成した国連制裁決議を踏みにじる行動には慎重になるはずだ。

北朝鮮への新たな制裁を中国がどこまで徹底するかは、指導層の中で2つの見方のどちらが主流になるかによって決まるだろう。北朝鮮に経済的圧力をかけても、ロシアがその状況を経済的・地政学的目標の追求に利用することは不可能だと判断すれば、中国は圧力強化に踏み切る公算が大きい。

中国がそうした判断を下せるよう、アメリカと同盟国は制裁違反が判明したロシア企業に相応の処分を科し、自ら賛成した制裁決議を遵守せよとロシアに圧力をかけ続けるべきだ。同時にアメリカは、ロシアとの戦略的パートナーシップにおいていわば「主」の立場にある中国に、ロシアに抑制を求めるよう促す必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中