最新記事

睡眠

「ADHDと睡眠障害は表裏一体である」との見解が明らかに

2017年10月2日(月)17時40分
松岡由希子

gollykim-iStock

<アメリカの子どものうち約11%がADHDと診断されているが、その原因は解明されていない。欧州神経精神薬理学会の会議で、「ADHDと睡眠障害とは表裏一体のような関係である」との見解を発表された>

ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは、不注意(集中力がない)、多動性(落ち着きがない)、衝動性(考える前に実行してしまう)という3つの症状を持つ行動障害である。米国では、2012年時点で、4歳から17歳までの子どものうち約11%にあたる640万人がADHDと診断され、その割合は、2003年時点の7.8%から増加している。

ADHDの原因については、これまでに、遺伝子脳の発達早期教育など、様々な要因が挙げられているが、まだ完全に解明されていないのが現状だ。

「ADHDと睡眠障害とは表裏一体のような関係である」との見解

蘭アムステルダム自由大学医療センター(VUmc)の准教授であるサンドラ・コーイ博士は、2017年9月、仏パリで開催された欧州神経精神薬理学会(ECNP)の会議において、「ADHDと睡眠障害とは表裏一体のような関係である」との見解を発表した。この見解が立証されれば、今後のADHDの研究方法や治療法にも大きな影響を与えるとみられている。

ADHDの症状に似た行動障害と睡眠との関係については、米アルベルト・アインシュタイン医学校のKaren Bonuck教授も、6ヶ月から7歳までの子どもを対象に実施した2012年の研究結果において「いびきや口呼吸、無呼吸などの睡眠呼吸障害(SDB)がみられる子どもは問題行動を起こしやすい」ことを明らかにし、子どもの睡眠呼吸障害に幼少時から注意を向けるよう警告した。

2015年からは、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の助成のもと、教師や保護者、子どもたちに睡眠についての知識を伝える『睡眠教育プログラム』に取り組んでいる。

ADHDとヒトの体内時計との相互関連性

一方、コーイ博士の研究結果は、ADHDと睡眠との関連についてさらに踏み込んだものだ。これによると、ADHD患者の75%は、睡眠のためのホルモンであるメラトニンの分泌変化など、睡眠に関連して現れる生理的兆候が、健常者に比べて1.5時間遅く、これに伴って、睡眠中の体温変化も遅れることがわかった。

コーイ博士は「昼夜のリズムが乱れるために、睡眠のみならず、体温や行動パターンや食事のタイミングなども乱れ、これが不注意や問題行動をもたらしているのではないか」と考察している。

今後は、身体および精神の双方の観点からADHDと睡眠障害との関連性をさらに解明するべく、ビタミンDレベルや血糖値、血圧、心拍変動などを調べていく方針だという。

コーイ博士の研究活動を含め、ADHDとヒトの体内時計との相互関連性について様々な研究が行われることで、ADHDの発症メカニズムの解明がすすんでいきそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中