最新記事

中東

アラブで高まる「第2の春」の予感

2017年10月31日(火)17時00分
シュロモ・ベンアミ(イスラエル元外相、トレド国際平和センター副所長)

magw171031-morocco02.jpg

モロッコの抗議運動リーダー、ゼフゼフィはベルベル語で政府の腐敗を糾弾 Youssef Boudlal-REUTERS

アラブ世界の専制国家の多くは、政治体制を維持しつつ、高度経済成長を実現する「中国モデル」に望みを託してきた。だが社会・経済的条件の異なるアラブ世界に中国式が通用しないことは火を見るより明らかだ。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は石油依存からの脱却を目指し、野心的な経済改革構想をぶち上げたが、行く手には多くの障壁が待ち受けている。経済改革を断行するには行政システムの改革も避けられないが、民主化を進めればサウド家の支配が根底から揺らぐことになる。

サウジアラビアと同様、モロッコの王制も「アラブの春」の影響をほとんど受けなかった。国王モハメド6世が世論に耳を傾け、国王の権限を縮小する憲法改正と選挙の前倒し実施という賢明な対応を取ったからだ。

「上からの革命」が必要

そのモロッコが今、「アラブの春」前夜のチュニジアを彷彿させる危機に直面している。チュニジアで民主化運動が高まったきっかけは10年暮れ、露天商の若者が路上で野菜などの売り物を警官に没収され、抗議の焼身自殺をしたことだった。

モロッコでは昨年10月、魚売りのムハシン・フィクリが当局に押収された魚を取り戻そうとしてゴミ収集車の粉砕機に巻き込まれ、死亡する悲劇が起きた。この事件が起きたのは、ベルベル人が多く住み、歴史的に抵抗の戦いで知られる北部のリフ地方。多くの住民が当局の仕打ちに怒り、抗議の波はすぐさま全域に広がった。

革命の機運が高まる時期には、無名の人物が民衆の指導者として頭角を現すもの。リフ地方では、39歳の失業中の男性ナセル・ゼフザフィがその役を担った。彼はインターネットで公開された動画で、政府の腐敗とモロッコの「独裁体制」をベルベル語で痛烈に批判して逮捕された。ゼフザフィの演説は多くの人々を動かし、今年6月には首都ラバトで大規模な抗議デモが行われた。

国王はリフ地方の経済開発に力を入れる姿勢を見せており、国民の不満をくみ取る点では他のアラブ諸国に一歩先んじている。実際、為政者が人々の声に耳を傾けて「上からの革命」に着手しなければ、はるかに激烈な「下からの革命」が荒れ狂うのは必然の成り行きだ。

若年層の怒りは荒れ狂う魔神のようなもの。魔法のランプから抜け出したが最後、補助金というアメをちらつかせても、弾圧というムチを振るっても、決して鎮められない。

(c) Project Syndicate

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年10月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブルガリア大統領、総選挙実施を発表 組閣行き詰まる

ワールド

プーチン氏がイラン大統領と電話会談、地域の緊張緩和

ビジネス

インド規制当局、取引決済の新方式提案 海外投資家の

ワールド

中国とカナダ、関税引き下げで合意 戦略的協力推進へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑について野次られ「中指を立てる」!
  • 2
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 5
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 10
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中