アラブで高まる「第2の春」の予感
アラブ世界の専制国家の多くは、政治体制を維持しつつ、高度経済成長を実現する「中国モデル」に望みを託してきた。だが社会・経済的条件の異なるアラブ世界に中国式が通用しないことは火を見るより明らかだ。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は石油依存からの脱却を目指し、野心的な経済改革構想をぶち上げたが、行く手には多くの障壁が待ち受けている。経済改革を断行するには行政システムの改革も避けられないが、民主化を進めればサウド家の支配が根底から揺らぐことになる。
サウジアラビアと同様、モロッコの王制も「アラブの春」の影響をほとんど受けなかった。国王モハメド6世が世論に耳を傾け、国王の権限を縮小する憲法改正と選挙の前倒し実施という賢明な対応を取ったからだ。
「上からの革命」が必要
そのモロッコが今、「アラブの春」前夜のチュニジアを彷彿させる危機に直面している。チュニジアで民主化運動が高まったきっかけは10年暮れ、露天商の若者が路上で野菜などの売り物を警官に没収され、抗議の焼身自殺をしたことだった。
モロッコでは昨年10月、魚売りのムハシン・フィクリが当局に押収された魚を取り戻そうとしてゴミ収集車の粉砕機に巻き込まれ、死亡する悲劇が起きた。この事件が起きたのは、ベルベル人が多く住み、歴史的に抵抗の戦いで知られる北部のリフ地方。多くの住民が当局の仕打ちに怒り、抗議の波はすぐさま全域に広がった。
革命の機運が高まる時期には、無名の人物が民衆の指導者として頭角を現すもの。リフ地方では、39歳の失業中の男性ナセル・ゼフザフィがその役を担った。彼はインターネットで公開された動画で、政府の腐敗とモロッコの「独裁体制」をベルベル語で痛烈に批判して逮捕された。ゼフザフィの演説は多くの人々を動かし、今年6月には首都ラバトで大規模な抗議デモが行われた。
国王はリフ地方の経済開発に力を入れる姿勢を見せており、国民の不満をくみ取る点では他のアラブ諸国に一歩先んじている。実際、為政者が人々の声に耳を傾けて「上からの革命」に着手しなければ、はるかに激烈な「下からの革命」が荒れ狂うのは必然の成り行きだ。
若年層の怒りは荒れ狂う魔神のようなもの。魔法のランプから抜け出したが最後、補助金というアメをちらつかせても、弾圧というムチを振るっても、決して鎮められない。
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[2017年10月 3日号掲載]