最新記事

スペイン

カタルーニャ「独立」は第2のスペイン内戦を呼ぶか

2017年10月2日(月)20時15分
ジェームズ・バドコック

もし独立賛成が圧倒的多数を占めれば、州政府は独立に向けた動きを加速させるだろう。州法の規定では、「賛成」票が過半数を占めれば、カタルーニャ州が「合法的な民主社会共和国」になる法律が施行され、徴税権や、中央政府が管轄していた資産や各種機関を獲得できるとある。さらに、1年以内に実施する次の住民投票に向けて、独自の憲法も作成することになる。中央政府の裁判所は、そうした措置は違法だとして片端から無効にし続けてきたし、これからもそうするだろう。一方の州政府幹部らは、中央政府がどんな手を使おうと、住民投票で独立派が勝利すれば自分たちには州議会の決定を優先する権利があると主張する。

双方がもっと現実的な対応を取る可能性も残っている。ラホイ政権は最近、中央政府の国内の自治州政府に対する権限分担を見直して譲歩する姿勢を、水面下で示し始めた。カタルーニャ州政府は、これまでより有利な立場から自治権の見直し手続きに参加することで、中央政府の譲歩に応じる可能性はある。

だが交渉による解決に向けたハードルは多い。

2014年の住民投票を実施した前州首相マスは5年前、スペインのバスク州並みに有利な徴税権を求め、首都マドリードでの交渉に向かった。豊かなバスク州には、収めた税金に見合う税収が中央政府から配分されていた。だがラホイは当時、マスの要求を一蹴した。

交渉の時期は過ぎた

もっとも、カタルーニャ州で独立を支持する若い世代は、自分たちの親の世代ほど、自治権拡大やより有利な財政援助に興味はない。ただ、自分たちの未来は自分たちで決めたいのだ。交渉による取引をするタイミングは、すでに過ぎ去ったように見える。

多くは、プッチダモンと州政府がどこまで求めるかにかかっている。前任者のマスと同じく、プッチダモンは独立は手の届くところにある、と人々の期待を煽った。もはや穏健策では満足しないだろう。二人とも、カタロニア独立の脆弱な法体系がスペインの司法当局が粉砕していくのに伴い、法的な殉教者となるよう運命付けられている。

だが、そうした殉教こそがカタルーニャ独立派の狙いだ。司法による容赦ない追及は、独立派を奮い立たせる。独立派に対する弾圧が続けば、国際社会がカタルーニャの味方につくかもしれないからだ。事実、米ニューヨーク・タイムズと仏ルモンドの社説は、住民投票の実施を許可するようスペインに促していた。

これまでスペインでは、2つの現実がいたちごっこを演じてきた。カタルーニャ州独立派が公的機関の名をカタルーニャ風に変えると、スペインの法廷がそれを却下して元に戻す。その繰り返しだ。

しかし、2つの現実が共存するのは不可能で、近いうちに相まみえなければならない。そのとき、スペインは交渉のテーブルに就けるのだろうか、あるいは内戦を戦うことになるのだろうか。


(翻訳:河原里香)

From Foreign Policy Magazine



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中