最新記事

大麻

医療用大麻不足のドイツ 来年解禁のカナダに依存

2017年9月29日(金)19時30分
モーゲンスタン陽子

警察は対応を懸念

タバコやアルコールよりも害が少ないとは長らく言われているが、大麻が神経に作用を与える物質であることには変わりない。ということは、あたりまえだが運転などの社会的活動に規制が必要となる。

カナダでは9月12日、カナダ警察署長連合や、オンタリオ州警察、サスカトゥーン警察などが、連邦政府に合法化の延期を提言している。路上で薬物運転を取り締まることのできる警察官が今の2倍以上は必要となるが、その訓練に来年夏ではとても間に合わないというのが理由だ。民間の教育も必要となる。

また、若者を守るという点では警察は自宅栽培の許可にも懐疑的だ。「合法的にマリファナを入手するシステムが整うなら、なぜ自宅栽培の必要があるのか?」と、オンタリオ州警察組織犯罪調査リック・バーナム副局長は述べている(グローブ・アンド・メール)。

自宅栽培などに伴う新たな苦情などの案件が増えることは予想されるものの、警察の仕事量自体は合法化により軽減されると見込まれる。これまでのように所持を取り締まらなくて済むようになるからだ。そのぶんの人員・労力、また新たな税収入を他の分野で有効に使い、また闇取引市場に流れる資金を削減できるという意味でも合法化は有益かもしれない。

ただしその場合、「(合法化により大麻の)禁止が間違っていたと認めるならば、警察に逮捕された人々の行為を犯罪とするのも間違いだったと認めるべきである」と、トロント大学の社会学者アクワスィ・オウース・ベンパ教授は言う(トロント・スター)。15歳以上のカナダ人の11%がこの1年以内に大麻を使用し、3分の1以上が少なくとも1度は使用の経験があるという高使用率の背景がカナダを合法化に向かわせる中で、違法時代に大麻所持で逮捕された人たちの前科を取り消すなどの必要性を指摘している。

大麻使用のデータに人種間の偏りはないにもかかわらず、違法時代に報告された犯罪にあたるケースは有色人種の割合が不当に多く、結果、彼らは社会的に不利な立場に立たされてしまった。合法化により得られるメリットを社会的不平等の是正に活用することが最も重要であり、カリフォルニアなどアメリカの例を参考にすべきだと同教授は提案する。

合法化に向けての反応は、民間のほうが早いようだ。筆者はほぼ毎年カナダのトロントを訪れているが、今年の夏は街中でマリファナの匂いに気づくことがいつになく多かった。

解禁間近ということで一般的な利用にも拍車がかかっているようだが、せっかくここまで認知されるようになった医療用効果の評判をふいにしないためにも、節度ある使用とその管理の徹底が重要となるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英EU離脱は貿易障壁の悪影響を世界に示す警告=英中

ワールド

香港国際空港で貨物機が海に滑落、地上の2人死亡報道

ビジネス

ECB、追加利下げの可能性低下=ベルギー中銀総裁

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、政局不透明感後退で 幅広
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中