最新記事

教育

学校でのいじめに影響する家庭の収入格差

2017年8月24日(木)15時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

いじめは思春期に多発するが、14歳の父母のうち子どものいじめ被害で悩んでいる者の割合を世帯の年収別に調べた統計がある。<図2>はそれをグラフにしたものだ。

maita170824-chart02.jpg

年収が低い家庭ほど、わが子のいじめ被害で悩んでいる親の比率が高い。年収800万以上では0.9%だが、年収200万未満では2.8%だ。子どもの不登校で悩んでいる親の率も同様である。いじめに象徴される、学校での人間関係のトラブルが原因になっていると思われる。

今は仲間との交際にも金がかかるので、経済的理由からスマホなどが持てず、つまはじきにされることもあるだろう。高校生になればアルバイトをして自分でカバーできるが、中学生ではそれもできない。

いわゆる「スクール・カースト」の決定要因として家庭環境は大きい。格差の拡大は、子どもの世界にも影を落としている。いじめの被害が生徒集団のどの層に分布しているかを突き止め、対策を講じていく必要がある。

【参考記事】子どもの貧困と格差の連鎖を止めるには「教育以外の環境」へのアプローチも不可欠

「集団」という言葉が出たが、いじめは集団現象として把握することが重要だ。いじめは被害者と加害者だけで成立する現象ではなく、周囲ではやし立てる観衆や「見て見ぬふり」をする傍観者も関与している(森田洋司教授、いじめの四層構造論)。

重要なのは、数的に多い観衆や傍観者をいかにして仲裁者や申告者に変えるかがだ。いじめを許容しない雰囲気(クライメイト)を醸成し、集団の力でいじめを圧し潰すような学級経営が望まれる(文科省『生徒指導提要』)。

もう一つ重要なのは、学級制度の見直しだ。生徒は朝から夕方まで「学級」という一つの固定的な集団で過ごすが、そこは逃げ場のない牢獄のようなものだ。カリキュラムにおいて、集団の変化を伴う選択履修やICT(情報通信技術)を用いた個別学習の比重を高めるような工夫をしてもいい。時代比較や国際比較をすれば、学級という制度は普遍的ではないことに気づかされる(柳治男『学級の歴史学-自明視された空間を疑う』講談社、2005年)。

学校に深く根を下ろした「いじめ」の病理を治療するには、生徒の学校生活の構造そのものを変えるという視点も必要だろう。

<資料:OECD「PISA 2015 Results STUDENTS' WELL-BEING VOLUME III」、
    厚労省『第14回・21世紀出生児縦断調査』(2015年)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中