最新記事

ミサイル防衛

中国が「安倍は北の挑発を口実に軍拡」と批判

2017年8月18日(金)20時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

日本政府関係者によれば「機器のトラブルなどでコースを外れ、日本に落ちてくる場合にも備える必要があると判断した」のであり、「(北朝鮮のミサイルに)ミスがあり、想定したコースを飛ばないおそれもあることからPAC3配備を決定した」とのこと。

中国のCCTVは、この「万一にも何かが起きて誤って日本に落ちた場合を想定してPAC3を配備した」という前提条件を無視して安倍政権を批判している。

その意味で事実歪曲であり、客観性に欠ける。

「コースを外れた場合」の疑問点

中国に客観性など求めても、とは思うが、しかし、「コースを外れて誤って日本に落ちた場合を想定して」という前提条件自体にも、論理的に少し気になるところがある。

どの時点で「想定したコースを外れるか」によって変わってくるが、基本的に言えるのは、その場合、どこに着弾するかは予測困難である可能性が高いということだ。

北朝鮮が「島根、広島、高知」と名指ししたのは、想定したコースを飛翔した場合の地点だ。このコースを外れれば、瞬間的に落下地点を計算しなければならず、一方ではPAC3の射程はわずか20キロ前後(航空自衛隊HPでは数十キロ)なので、外れたコースによる着弾点近くで待機していなければならない。

PAC3は、たとえば皇居を守ろうと思ったら皇居近くに配備して、その近くに落下してくるときのみ弾道ミサイルを迎撃できるという性格のものだ。守れるのはPAC3を配備した地点から半径20キロの半球の範囲内ということになる。したがって関係地域に配備しても、守れるのは配備した地点の20キロ半球内であって、それ以外の地域は守れない。

ミサイルの飛翔プロセス

今さら言うまでもないが、ミサイルを発射したときの飛翔プロセスには、以下の3段階がある。

1)ブースト段階:推進段階。ミサイル発射からロケット燃料燃焼終了までの行程で、大気圏突入前の上昇初期段階。

2)ミッドコース段階:中間飛翔段階。上昇コースと下降コースの二段階に分かれる。ロケット燃料が燃焼して終わったあとに、慣性で上昇し続け大気圏外を飛翔。最高高度(400~800キロ?)後は下降コースに入る。

3)ターミナル段階:大気圏内に再突入した後から着弾までの下降最終段階。PAC3やTHAAD(終末高高度ミサイル迎撃システム、射程200キロ)などがターミナル段階の迎撃ミサイル。

たしかにPAC3の射程は20キロ程度なので、北朝鮮からグアムに向けて発射されたとき、日本上空ではミサイルは大気圏外(上記「2」ミッドコース段階)にあり、日本国土上にPAC3を配備しても、何の役にも立たない。ミサイルは遥か南のグアムの少し手前で大気圏内に再突入するので、PAC3はそれよりさらに南の上空20キロでミサイルが落下する地点で待機していないと迎撃効果を発揮することはできないのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中