ビットコイン大国を目指すスイスの挑戦
乱用防止のために、ビットコインの全取引は暗号化され、ブロックチェーンと呼ばれるデータベースに登録される。要するに共有された取引台帳だ。誰かが何かを買うのにビットコインを使うと、ブロックチェーンはその取引をブロックと呼ばれる連続性のあるコードを使って記録する。
データベースの更新はビットコインソフトを作動させているネットワーク全体で行われ、全ての人のビットコイン保有高について公式の記録が作成される。ハッカーが記録を改ざんすることは不可能だ。
技術応用への期待と課題
この技術は銀行業務以外にも多くの用途に応用できる可能性がある。ブロックチェーンは安全で簡単にアクセス可能な場所に記録を保管するデータベースとして利用が可能だ。
例えばデンマークの海運会社マースクでは、この技術を貨物の追跡に役立てている。同社によれば、東アフリカからヨーロッパにコンテナ1つを輸送するのに現状では最大30人の証印や承認が必要で、目的地に到着するまでに200以上のやりとりを経る場合がある。しかしブロックチェーンを活用すれば書類を減らして手続きを迅速化させ、数百万ドルのコストを削減できる可能性がある。
HSBC証券やドイツ銀行をはじめとする世界の90以上の銀行も、ブロックチェーン技術の潜在的可能性を探っている。
【参考記事】「次のインターネット」、噂のブロックチェーンって何?
投資ファンドのサンタンデール・イノベンチャーズによれば、この技術で取引や帳簿作成業務を効率化させることで、銀行業界は22年までに年間最大200億ドルを節約できる可能性がある。起業家のフェルドマイヤーも、「反復作業の多い財務関係の業務を自動化するシステムの開発にブロックチェーン技術が役立つだろう」と言う。
ブロックチェーンの普及が進めば、当局はその安全性と信頼性を確保する規制を急がねばならない。「こうしたシステムには大きな利点があるが、多くの脆弱性もある」と警告するのはハーバード・ビジネススクールのカリム・ラカニ教授だ。
しかしツークでは、そんな警鐘もどこ吹く風。かつてのインターネットのように、この技術は人々の生活を一変させるだろうと、多くの人が信じている。
「この技術をもっと活用していく方法を、私たち自身が生み出していかなければいけない」とフェルドマイヤーは言う。「業界全体で協力して、数多くの障壁を克服していく必要がある。ツークでは町全体が私たちの仲間になり、今では私たちの意見に耳を貸してくれる」
小さな町で始まった大きな実験は、やがて国境を超えて世界に広がっていくことだろう。
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[2017年8月 1日号掲載]