最新記事

法からのぞく日本社会

民泊新法の目的は、東京五輪対策ではなく地方活性化!?

2017年6月23日(金)19時21分
長嶺超輝(ライター)

2013年現在、日本の空き家数は約820万戸で、家屋全体の13.5%を占め、過去最大の割合となった。各地では「空き家対策条例」が制定されている。持ち主各自で空き家を責任をもって維持管理するよう義務づけ、もし倒壊などの危害が生じるおそれがあれば、自治体が勧告や措置命令を出せる。おおむねそういった内容だ。

ただ、持ち主が不明、あるいは曖昧なまま放置されていて、倒壊の危険だけでなく、不気味な外観となったり異臭を放ったりする空き家も少なくない。かといって憲法で私有財産制が保障されている国である以上、役所が空き家を撤去する場合には、行政代執行で極めて慎重に実行しなければならない。

大半の地方コミュニティが頭を抱えている、厄介な課題。それが空き家である。

もしも、固定資産税を支払うだけのお荷物になっている空き家を、民泊に活用できるのであれば、地方へ足を延ばす観光客の増加に寄与し、彼らの目を通して魅力的に映る観光資源が各地で次々と掘り起こされるという期待も生じる。

羽田や成田に降り立って来日した外国人たちに、「東京だけ見て帰ってはもったいない」と思わせるに足りる観光地が日本各地にある。

つまり、地方の観光を盛り上げるのに、民泊事業はひとつの鍵を握っているのではないか。LCC(格安航空会社)や高速バスなどとも連携できる。

欧米を中心に「自然を克服する文明」を背景に持つ人々にとって、日本のような「自然と共存する文明」は、きっと新鮮に映るだろう。富士山が世界自然遺産でなく世界文化遺産として登録されていることも象徴的だ。むしろ、日本という唯一無二の文化圏の個性は、日本人よりも外国人のほうが気づきやすいに違いない。

素朴な民泊ホストが、日本家屋で温かく出迎えて、日本人と外国人がお互いに敬意を持って交流し合い、民泊と旅館業が共存共栄していく未来は、きっと21世紀にふさわしい美しさを放つはずだ。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中